たけのこ赤軍の自由帳

反復積分とNona ReevesとPrinceとRED SPIDER

Asymptotic Expansions for the multiple gamma functions of Barnes-Milnor type

っていうタイトルの論文も arXiv に投稿しました。

arxiv.org

もともと新谷が二重ガンマの漸近展開を示して、その一般化として片山、大槻の ``On The Multiple Gamma Function" で多重ガンマ関数の漸近展開が示されてたんですが、今回はそれをBM型に一般化してみました。

The q-multiple gamma functions of Barnes-Milnor type

っていうタイトルの論文を arXiv に投稿しました。

[1905.08068] The $q$-multiple gamma functions of Barnes-Milnor type


黒川-落合による BM 型ガンマ関数

\begin{eqnarray*}\displaystyle\Gamma_{r,k}(w;{\boldsymbol{\omega}})=\exp\left(\left.\frac{\partial}{\partial s}\zeta_r(s,w;{\boldsymbol{\omega}})\right|_{s=-k}\right)\end{eqnarray*}

と黒川の q-多重ガンマ関数

\begin{eqnarray*}\displaystyle\Gamma_r^q(w;{\boldsymbol{\omega}})=\frac{\Gamma_{r+1}(w;({\boldsymbol{\omega}},\tau'))\Gamma_{r+1}(w;({\boldsymbol{\omega}},-\tau'))}{\Gamma_r(w;{\boldsymbol{\omega}})}\end{eqnarray*}

の両方を含む一般化として q-BM 型多重ガンマ関数

\begin{eqnarray*}\displaystyle\Gamma_{r,k}^q(w;{\boldsymbol{\omega}})=\frac{\Gamma_{r+1,k}(w;({\boldsymbol{\omega}},\tau'))\Gamma_{r+1,k}(w;({\boldsymbol{\omega}},-\tau'))}{\Gamma_{r,k}(w;{\boldsymbol{\omega}})}\end{eqnarray*}

を導入し、それに対する倍角公式、周期変形、ラーベの公式を示したものです。ほかに、田中による積表示

\begin{eqnarray*}\displaystyle\Gamma^q_r(w;{\boldsymbol{\omega}})=\prod_{\mathbf{n}\geq\mathbf{0}}(1-q^{\mathbf{n}\cdot{\boldsymbol{\omega}}+w})^{-1}\end{eqnarray*}

q-BM型多重ガンマ関数にも一般化し、その系として上記三つの公式が容易に得られること、および渋川による消滅定理

\begin{eqnarray*}\displaystyle\zeta_r^q(-n,w;{\boldsymbol{\omega}})=0\end{eqnarray*}

も得られることを示しました。

q-ヴァンデルモンドの公式

この記事はこの曲を聴きながら読むのがオススメです:
James Brown - Turn Me Loose, I'm Dr. Feel Good

James Brown - Turn Me Loose, I'm Dr. Feel Good



最近qがアツイです。ぼくの中で。


だというのに数学界隈にはなぜか一向にqが流行りません。


というわけで今日は面白い公式を一つ。



\begin{eqnarray*}\displaystyle F(-n,b,c;1)=\frac{(c-b)_n}{(c)_n}\end{eqnarray*}


これはヴァンデルモンドの公式というやつです。まずは記号の説明。適当なパラメータ x に対して

\begin{eqnarray*}\displaystyle (x)_n=\prod_{i=0}^{n-1} (x+i)\end{eqnarray*}

とおき、この記号をポッホハマー記号と呼びます。記号をいちいち書くのが面倒くさいので、(a)_n(b)_n(a,b)_n と書くことにします。(1)_n=n! を注意。


適当なパラメータ a,b,c0<|z|<1 に対して関数

\begin{eqnarray*}\displaystyle F(a,b,c;z)=\sum_{n=0}^{\infty} \frac{(a,b)_n}{n!(c)_n}z^n\end{eqnarray*}

を(ガウスの)超幾何級数と呼びます。これは一般超幾何級数

\begin{eqnarray*}\displaystyle {}_{r+1}F_r\left(\begin{matrix}a_1,\cdots,a_{r+1}\\ b_1,\cdots,b_r\end{matrix};z\right)=\sum_{n=0}^{\infty} \frac{(a_1,\cdots,a_{r+1})_n}{n!(b_1,\cdots,b_r)_n}z^n\end{eqnarray*}

r=1 としたケースですね。


で、なんでこんな公式を扱おうと思ったかというとですね、tsujimotterさんの記事を読んだのです:
tsujimotter.hatenablog.com

この記事にあるように、証明自体は超幾何級数の変形だけで可能です。しかしぼくはq-人類、qを使わずして証明とは言えません。


というわけでヴァンデルモンドの公式のq-類似を示していこうと思います。


記号の準備。ひとまず 0<|q|<1 とします。q-ポッホハマー記号を

\begin{eqnarray*}\displaystyle (x;q)_n=\prod_{i=0}^{n-1} (1-xq^i)\end{eqnarray*}

と定めます。古典極限

\begin{eqnarray*}\displaystyle \lim_{q\rightarrow{1}}\frac{(x;q)_n}{(1-q)^n}=(x)_n\end{eqnarray*}

はかんたんですね。無限版のq-ポッホハマー記号

\begin{eqnarray*}\displaystyle(x;q)_{\infty}=\prod_{n=0}^{\infty} (1-xq^n)\end{eqnarray*}

を用いて

\begin{eqnarray*}\displaystyle (x;q)_n=\frac{(x;q)_{\infty}}{(xq^n;q)_{\infty}}\end{eqnarray*}

と書けることに注意してください。この記号を使えばq-超幾何級数

\begin{eqnarray*}\displaystyle {}_{r+1}\phi_r\left(\begin{matrix}a_1,\cdots,a_{r+1}\\ b_1,\cdots,b_r\end{matrix};q,z\right)=\sum_{n=0}^{\infty} \frac{(a_1,\cdots,a_{r+1};q)_n}{(q,b_1,\cdots,b_r;q)_n}z^n\end{eqnarray*}

というふうに定義できます。古典極限は

\begin{eqnarray*}\displaystyle\lim_{q\rightarrow{1}} {}_{r+1}\phi_r\left(\begin{matrix}q^{a_1},\cdots,q^{a_{r+1}}\\ q^{b_1},\cdots,q^{b_r}\end{matrix};q,z\right)={}_{r+1}F_r\left(\begin{matrix}a_1,\cdots,a_{r+1}\\ b_1,\cdots,b_r\end{matrix};z\right)\end{eqnarray*}

というかんじ。


よし証明だ。まずq-二項定理を示します。


実はこの定理に関しては以前の記事

o-v-e-r-h-e-a-t.hatenablog.com

でも言及したのですが、証明はしていないのでいざ。


\begin{eqnarray*}\displaystyle h(a,z)=\frac{(az;q)_{\infty}}{(z;q)_{\infty}}\end{eqnarray*}

としたとき

\begin{eqnarray*}\displaystyle h(a,qz)&=&\prod_{n=0}^{\infty} \frac{1-azq^{n+1}}{1-zq^{n+1}}\\&=&\frac{1-z}{1-az}h(a,z)\end{eqnarray*}

なので

\begin{eqnarray*}\displaystyle h(a,z)=\sum_{n=0}^{\infty} a_nz^n\end{eqnarray*}

とおくと

\begin{eqnarray*}\displaystyle(1-az)h(a,qz)=(1-z)h(a,z)\end{eqnarray*}

より両辺で係数比較して

\begin{eqnarray*}\displaystyle a_{n+1}=\frac{1-aq^n}{1-q^{n+1}}a_n\end{eqnarray*}

を得られます。そして明らかに a_0=1 なので

\begin{eqnarray*}\displaystyle a_n=\frac{(az;q)_n}{(z;q)_n}\end{eqnarray*}

となります。よって、

\begin{eqnarray*}\displaystyle h(a,z)&=&\frac{(az;q)_{\infty}}{(z;q)_{\infty}}\\&=&\sum_{n=0}^{\infty} \frac{a;q)_n}{(q;q)_n}z^n\\&=&{}_1\phi_0\left(\begin{matrix}a\\ -\end{matrix};q,z\right)\end{eqnarray*}

という等式を得ました。これがq-二項定理。もちろん古典極限をとるとニュートンの一般二項定理に帰着します。


さてお次はハイネの変換公式。これが証明のミソです。話題にするのは {}_2\phi_1 級数。ひといきに証明します:


\begin{eqnarray*}\displaystyle{}_2\phi_1\left(\begin{matrix}a,b\\ c\end{matrix};q,z\right)&=&\sum_{n=0}^{\infty}\frac{(a,b;q)_n}{(q,c;q)_n}z^n\\&=&\frac{(b;q)_{\infty}}{(c;q)_{\infty}}\sum_{n=0}^{\infty}\frac{(a;q)_n(cq^n;q)_{\infty}}{(q;q)_n(bq^n;q)_{\infty}}z^n\\&=&\frac{(b;q)_{\infty}}{(c;q)_{\infty}}\sum_{n=0}^{\infty}\frac{(a;q)_n}{(q;q)_n}z^n\sum_{m=0}^{\infty} \frac{(c/b;q)_m}{(q;q)_m}b^mq^{mn}\\&=&\frac{(b;q)_{\infty}}{(c;q)_{\infty}}\sum_{m=0}^{\infty} \frac{(c/b;q)_m}{(q;q)_m}b^m\sum_{n=0}^{\infty}\frac{(a;q)_n}{(q;q)_n}(zq^m)^n\\&=&\frac{(b;q)_{\infty}}{(c;q)_{\infty}}\sum_{m=0}^{\infty} \frac{(c/b;q)_m}{(q;q)_m}b^m\frac{(azq^m;q)_{\infty}}{(zq^m;q)_{\infty}}\\&=&\frac{(b;q)_{\infty}}{(c;q)_{\infty}}\sum_{m=0}^{\infty} \frac{(c/b;q)_m}{(q;q)_m}b^m\frac{(az;q)_{\infty}(z;q)_m}{(az;q)_m(z;q)_{\infty}}\\&=&\frac{(b,az)_{\infty}}{(c,z)_{\infty}}{}_2\phi_1\left(\begin{matrix}c/b,z\\ az\end{matrix};q,b\right).\end{eqnarray*}

やっていることを大雑把に説明すると、


1.{}_2\phi_1 の因子の一部をバラす
2.バラしたところをq-二項定理で展開する
3.整理する
4.余った部分をq-二項定理でまとめる
5.整理する


といった感じです。


q-二項定理のように「超幾何級数 = 積」という形の等式を「和公式」と呼ぶことが多いのですが、ハイネの変換公式ではまさに「超幾何級数をバラして和公式を複数回適用して組み立て直す」ということをやっています。


和公式はq-二項定理以外にもたくさんありますし、変換公式もハイネの変換公式以外にたくさんありますが、いずれも証明の根本部分は殆ど変わりません。やっていることは「級数をバラす→和公式を適用→組み直し」のプロセスです。


では本題に戻って、つぎはハイネの和公式の証明。といっても一瞬で、ハイネ変換に z=c/ab を代入すればよいのです:


\begin{eqnarray*}\displaystyle{}_2\phi_1\left(\begin{matrix}a,b\\ c\end{matrix};q,\frac{c}{ab}\right)&=&\frac{(b,c/b;q)_{\infty}}{(c,c/ab;q)_{\infty}}{}_2\phi_1\left(\begin{matrix}c/b,c/ab\\ c/b\end{matrix};q,b\right)\\&=&\frac{(b,c/b;q)_{\infty}}{(c,c/ab;q)_{\infty}}{}_1\phi_0\left(\begin{matrix}c/ab\\ -\end{matrix};q,b\right)\\&=&\frac{(b,c/b,c/a;q)_{\infty}}{(c,c/ab,b;q)_{\infty}}\\&=&\frac{(c/b,c/a;q)_{\infty}}{(c,c/ab;q)_{\infty}}\end{eqnarray*}


はいOK。これがハイネの和公式。もちろんこれも和公式の一種です。


さて目的は、q-ヴァンデルモンドの公式でしたね。証明はかんたんで、ハイネの和公式に a=q^{-n} を放り込んで終わり。

\begin{eqnarray*}\displaystyle{}_2\phi_1\left(\begin{matrix}q^{-n},b\\ c\end{matrix};q,\frac{cq^n}{b}\right)&=&\frac{(c/b,cq^n;q)_{\infty}}{(c,cq^n/b;q)_{\infty}}\\&=&\frac{(c/b,c;q)_{\infty}(c/b;q)_n}{(c,c/b;q)_{\infty}(c;q)_n}\\&=&\frac{(c/b;q)_n}{(b;q)_n}\end{eqnarray*}

という具合。bq^b に、cq^c に変えてから古典極限 \lim_{q\rightarrow{1}} をとれば簡単にもとのヴァンデルモンドの公式が得られます。




qの計算、いかがでしたでしょうか。慣れてない人にはちょっと重かったかもしれません。


でもqのお気持ちみたいなのはちょっとわかってもらえたかな、と思います。


ちなみに、最後で超幾何級数のパラメータに q^{-n} を代入しましたが、これは打ち止め (terminate, 訳語がなかったので暫定でこう呼ぶ, 決してラストオーダーではない) という操作です。(q^{-n};q)_jj>n のとき消えるので、無限和である超幾何級数を文字通り有限和にする操作というわけですね。


有限超幾何級数 (terminating hypergeometric series) はたくさんの和公式や変換公式が発見されており、それらを駆使することでアスキー=ウィルソン積分を計算したりすることもできます。


というワケでみなさんも是非qがらみの計算にトライしてみてください!







q^(-n)の代入をラストオーダーと呼ぶのもあながち間違いじゃないのかもしれない

三角関数の周期性について

この記事はこの曲を聴きながら読むのがオススメです:
Queen - 輝ける七つの海

Queen - Seven Seas Of Rhye (Official Video)


本記事は 好きな証明 Advent Calendar 2018 - Adventar 24日目に急に空きができたので滑り込んだ記事です。23日目の記事はせきゅーんさんによる [:title] でした。


三角関数といえば、周期性ですね。

高校で数IIをやっていると、\sin(x+2\pi)=\sin x という式は息をするように使うものです。

このことの証明にはいろんなものがあります。高校で習う標準的なものは「円は 2\pi で一周するからそら一致するやろ」というものですね。これは三角関数が単位円によって定義されているからこそできる技です。



しかしこの記事はわたくし、たけのこ赤軍が書いているのです。多重サインを使わずして何が証明か。

というワケで、「多重三角関数を使った三角関数の周期性証明」をやっていきましょう。

この証明は恐らく誰もやったことがない、即ちぼくが考えたぼくのオリジナルの証明になります。なんで誰もやってないかって?こんなまどろっこしいことやらんでも証明できるからに決まっとるやろアホたれ



まずは定義のおさらい。

\begin{eqnarray*}\displaystyle\zeta_r(s,w;{\boldsymbol{\omega}})=\sum_{{\bf n}\geq{\bf 0}} ({\bf n}\cdot{\boldsymbol{\omega}}+w)^{-s}\end{eqnarray*}

は多重フルヴィッツゼータ関数で、w,\omega_i\,(i=1,\cdots,r) の実部は正。

\begin{eqnarray*}\displaystyle\Gamma_r(w;{\boldsymbol{\omega}})=\exp(\zeta'_r(0,w;{\boldsymbol{\omega}}))\end{eqnarray*}

で多重ガンマを定義して、\zeta's での微分。多重三角関数

\begin{eqnarray*}\displaystyle S_r(w;{\boldsymbol{\omega}})=\Gamma_r(w;{\boldsymbol{\omega}})^{-1}\Gamma_r(|{\boldsymbol{\omega}}|-w;{\boldsymbol{\omega}})^{(-1)^r}\end{eqnarray*}

で定義します。ただし |{\boldsymbol{\omega}}|=\sum_{i=1}^r \omega_i です。

多重ガンマで遊んでいるとこの定義を一日一回書かないと気が済まなくなります。



さて、次は「BM型」というのを導入しましょう。多重ガンマは知っててもBM型のものは知らない、という人も多いのではないでしょうか。おい誰や多重ガンマ自体マイナーとか言うた奴しばくぞ。

BMというのは「Barnes-Milnor」の略で、バーンズは多重ガンマ関数の創始者ですが、ミルナーはガンマ関数を別の方向で一般化しています。要するにBM型というのはこれら二つの融合というわけです。

ミルナーの行った一般化は、レルヒの公式において微分してから s=0 の代わりに適当な負の整数を代入してやろうというものです。ということなので、k\geq{0} に対してBM型多重ガンマ関数を次で定めます:

\Gamma_{r,k}(w;{\boldsymbol{\omega}})=\exp(\zeta'_r(-k,w;{\boldsymbol{\omega}})).

BM型多重サインも同様に S_{r,k}(w;{\boldsymbol{\omega}})=\Gamma_{r,k}(w;{\boldsymbol{\omega}})^{-1}\Gamma_{r,k}(|{\boldsymbol{\omega}}|-w;{\boldsymbol{\omega}})^{(-1)^{r+k}}


さて下準備は完了。今から使うのは二つの定理。

「ラーベの積分公式」と「キンケリンの公式」というやつです。

各々の証明は

N.Kurokawa, M.Wakayama - PERIOD DEFORMATIONS AND RAABE'S FORMULAS FOR GENERALIZED GAMMA AND SINE FUNCTIONS
https://www.jstage.jst.go.jp/article/kyushujm/62/1/62_1_171/_article/-char/ja

N.Kurokawa, H.Ochiai - GENERALIZED KINKELIN'S FORMULA
https://projecteuclid.org/download/pdf_1/euclid.kmj/1183475511

にあります。主張だけ抜き出しておくと、ラーベの公式が

\begin{eqnarray*}\displaystyle\underbrace{\int_0^1\cdots\int_0^1}_{l} \log S_{r+l,k}(w+{\bf t}\cdot{\boldsymbol{\alpha}};({\boldsymbol{\omega}},{\boldsymbol{\alpha}}))\,d{\bf t}=\frac{(-1)^lk!}{|{\boldsymbol{\alpha}}|_{\times}(l+k)!}\log S_{r,l+k}(w;{\boldsymbol{\omega}}).\end{eqnarray*}

で、キンケリンの公式が

\begin{eqnarray*}\displaystyle\int_0^w \log S_{r,k-1}(t;{\boldsymbol{\omega}})\,dt=\frac{1}{k}\log\frac{S_{r,k}(w;{\boldsymbol{\omega}})}{S_{r,k}(0;{\boldsymbol{\omega}})}\end{eqnarray*}

というものです。右下にバッテンついてるのは成分全部掛けるって意味ね。



さて、ラーベの公式のほうで l=1 ととってみましょう。添字を付ける意味もないので \alpha_1=\alpha とします。見やすいように t\mapsto{t/\alpha} と変換しておくと、

\begin{eqnarray*}\displaystyle\int_0^{\alpha} \log S_{r+1,k}(w+t;({\boldsymbol{\omega}},\alpha))\,dt=-\frac{1}{k+1}\log S_{r,k+1}(w,{\boldsymbol{\omega}})\end{eqnarray*}

というふうになりますね。さらに t\mapsto{t-w} とすると、

\begin{eqnarray*}\displaystyle\int_w^{w+\alpha} (k+1)\log S_{r+1,k}(t;({\boldsymbol{\omega}},\alpha))\,dt=-\log S_{r,k+1}(w,{\boldsymbol{\omega}})\end{eqnarray*}

となります。さてキンケリンの公式からわかるように (k+1)\log S_{r+1,k}(t;{\boldsymbol{\omega}},\alpha) の原始関数として \log S_{r+1,k+1}(t;{\boldsymbol{\omega}},\alpha) がとれるので、左辺を計算して両辺 \log をはずすと

S_{r+1,k+1}(w;{\boldsymbol{\omega}},\alpha)/S_{r+1,k+1}(w+\alpha;{\boldsymbol{\omega}},\alpha)=1/S_{r,k+1}(w,{\boldsymbol{\omega}})

となります。そしてここで r=0, k=-1, \alpha=1/2 ととると、よく知られた事実 S_{1,0}(w;\alpha)=S_1(w;\alpha)=2\sin(\pi w/\alpha)S_0(w;-)=-1 より

2\sin(2\pi w)/2\sin(2\pi(w+1/2))=-1

即ち

\sin(2\pi w)=-\sin(2\pi w+\pi)

がわかります。あとは x=2\pi w とでもおいてこの式を二回使えば

\sin x=sin(x+2\pi)

が示せました。以上です。








聖夜に何やってんだ俺。

最終日の記事はキグロさんの 月の表面が粗いことの証明:呟きの補集合 - ブロマガ です。

ある多項式について

この記事はこの曲を聴きながら読むのがオススメです:

Prince - 3121

Prince (Prince Rogers Nelson) - 3121, 2006 3121


さて今日は、わたくしたけのこ赤軍が半年以上に渡って悩み考えつつも答えを出せていないある問題についてのお話をしましょう。


まずはじめに、世の中には「二項定理」というものがあります。お読みのみなさんが高校生以上であるならば、数IIだか数Bだか知りませんがなんだかでやった覚えがあることと思います。

そう、

\displaystyle(x+y)^k=\sum_{k=0}^n \binom{n}{k}x^ky^{n-k}

コイツです。

今ここで、適当に複素数 q をとります。絶対値は1より小さいと考えて下さい。あるいは、あなたが複素数を何らかの理由でお嫌いなのであればq<1なる実数としていただいてもかまいません。

そんで、この二項定理に x=q,\,y=1-q を代入してみます。そうして以下のように計算を続けていきます:

\begin{eqnarray*}\displaystyle1&=&\sum_{k=0}^n\binom{n}{k}q^k(1-q)^{n-k}\\\frac{1}{(1-q)^n}&=&\sum_{k=0}^n \binom{n}{k}\frac{q^k}{(1-q)^k}\\&=&\frac{q^n}{(1-q)^n}+\sum_{k=0}^{n-1} \binom{n}{k}\frac{q^k}{(1-q)^k}\\\frac{1-q^n}{(1-q)^n}&=&\sum_{k=0}^{n-1}\binom{n}{k}\frac{q^k}{(1-q)^k}\\\frac{(q;q)_n}{(1-q)^n}&=&\sum_{k=0}^{n-1} \binom{n}{k}\frac{q^k}{(1-q)^k}(q;q)_{n-1}\frac{(q;q)_k}{(q;q)_k}\end{eqnarray*}

出てくる記号の意味は

o-v-e-r-h-e-a-t.hatenablog.com

をごらんください。


さて、ここまで変形は追えたでしょうか。追えなかった人はもう一度落ち着いて自分で手を動かしてくださいね。


新しい記号を導入しましょう:

\displaystyle[n]_q!:=\frac{(q;q)_n}{(1-q)^n}.

これがなんなのかといいますと、まぁ察しの良い方は気づいておられるのでしょうが、階乗のq-類似です。要するに、\lim_{q\rightarrow{1}}[n]_q!=n! となっているのです。


といいますのもこれは非常にかんたんな理屈で、上に挙げた記事でも言われているように整数 n のq-類似は [n]_q:=\frac{1-q^n}{1-q} なので、これらを掛け合わせているだけなんですね。


この「q-階乗」をつかうと、いま導いた式は

\displaystyle[n]_q!=\sum_{k=0}^{n-1} \binom{n}{k}q^k(1-q^{k+1})\cdot\cdots\cdots(1-q^{n-1})[k]_q!

というふうに書くことができます。空積の部分は慣例どおり1で計算してください。




ここまでよむと、「なんかq-階乗の関係式出して満足しとるぞコイツ変なやっちゃな」で終わるかもしれません。それでいいのならそれでもいいんですが・・・問題はここからです。

二項係数とはなんでしたか?そう、階乗を使って

\displaystyle\binom{n}{k}=\frac{n!}{k!(n-k)!}

と書けるものでしたよね。

では、これのq-類似ももちろん考えられるはずです。当然、

\begin{eqnarray*}\displaystyle\binom{n}{k}_q&=&\frac{[n]_q!}{[k]_q![n-k]_q!}\\&=&\frac{(q;q)_n}{(q;q)_k(q;q)_{n-k}}\end{eqnarray*}

としたくなりますよね。


ところで、上記で導いた式には二項係数が入っておりました。式の大部分がqにまみれているわけですから、あれにも手を加えたくなりますね。

ですが、ここではqではなく新しい変数pを導入します。即ち・・・


\displaystyle a_n(p,q)=\sum_{k=0}^{n-1} \binom{n}{k}_pq^k(1-q^{k+1})\cdot\cdots\cdots(1-q^{n-1})a_k(p,q)

を満たす多項式 a_k(p,q) を考えるのです。



これがたいそうむずかしい。ぼくが半年悩んでいるというのは、まさにこの、多項式 a_n を明示的な式で書くことなのです。



この問題、考えるもとになったのは「q-二項定理」です。最初に挙げた二項定理、あれのq-類似は

\displaystyle(-x;q)_n=\sum_{k=0}^{n-1}\binom{n}{k}_qx^kq^{k(k-1)/2}

となります。しかし、一般に「q-二項定理」といえばこれの「無限バージョン」、即ち

\displaystyle\frac{(az;q)_{\infty}}{(z;q)_{\infty}}=\sum_{n\geq{0}} \frac{(a;q)_n}{(q;q)_n}z^n

を指します。そう、q-二項定理には有限版と無限版があるのです。


ぼくはこの無限版のほうに着目しました。この定理において a=0 ととると、なんと無限q-Pochhammer記号の逆数のテイラー展開になっているのです。


こういってもピンとこないかもしれません。そんなあなたは、是非上に挙げたq-多重ガンマの記事を読み直して下さい。




もうおわかりでしょうか。




q-二項定理は、q-(一重)ガンマのフーリエ展開を与えているのです。


「"フーリエ"展開?"テイラー"展開の間違いだろ?」とお思いの方もいるかも知れません。ここでは本質的に同じなのですが、ぼくがわざわざフーリエ展開の名前を引っ張り出してきたのはq-多重ガンマに周期性があるからです。

記事では書いていませんでしたが、通常q-多重ガンマを考えるときには上半平面上の変数 \tau' をとり、q=exp(-2\pi i/\tau') とおいて考えます。このとき、

\displaystyle\Gamma_r^q(w+\tau';{\boldsymbol{\omega}})=\Gamma_r^q(w;{\boldsymbol{\omega}})

となります。証明は easy なので読者の演習問題とします。


要するに、q-二項定理(の特殊バージョン)をq-ガンマでかきなおすと

\displaystyle\Gamma_1^q(w;1)=\sum_{n\geq{0}} \frac{1}{(q;q)_n}q^{wn}

という風になるわけですが、これは変数 w に関して周期 \tau' をもつがゆえの話なのだよ、と言っているのです。




でもぼくは物足りませんでした。案の定というかなんというか、

\displaystyle\Gamma_r^q(w;{\boldsymbol{\omega}})=\sum_{n\geq{0}}c_{r,n}({\boldsymbol{\omega}})q^{wn}

とかやって、係数を求めようとしたのです。悲しいかな、多重化人間の性ですね。



しかしこれが存外に難しい。q-二項定理の証明と同じようにやっても、まるで歯がたたないのです。


しかたないので、二重バージョンに限って考えることにしました。もとのモチベーションでいうなら・・・

\displaystyle\prod_{i,j\geq{0}} (1-p^iq^jx)^{-1}=\sum_{n\geq{0}} c_n(p,q)x^n

として定義される p,q の有理関数 c_n を調べようとしたのです。

考えるうちにすぐわかったこととして、分母が (p;p)_n(q;q)_n である、即ち

\displaystyle c_n(p,q)=\frac{a_n(p,q)}{(p;p)_n(q;q)_n}

としたとき、a_n多項式になるというのです。これがまさに先程話題にした多項式 a_n のことです。



ところが、計算しても計算しても手がかりは得られませんでした。最初の10項ぐらいを求めて帰納法でゴリ押しを試みるも、規則性は全く思い浮かばず。かろうじてわかったことといえば・・・


(1) 対称的、即ち a_n(p,q)=a_n(q,p) である
(2) 特殊値はq-階乗になる: a_n(1,q)=a_n(q;1)=[n]_q!
(3) 最高次の項は斉次、即ち a_n(p,q)=1+\cdots+p^mq^m と書けて、次数は m=n(n-1)/2 として求められる

の三つです。うーん、わからない。




この多項式 a_n についてなにかわかった方がいらっしゃったら、この記事のコメント欄か、ぼくの twitter @691_7758337633 まで教えてください。
些細な情報、手がかりでも構いません。どうか宜しくおねがいします。

奇数ゼータのある級数表示

この記事はこの曲を聴きながら読むのがオススメです:

The Jacksons - Heartbreak Hotel

Michael Jackson Heartbreak Hotel Live Yokohama 1987


今回の記事は Wikipediaリーマンゼータ関数 - Wikipedia に記載のある「ラマヌジャンが得た \zeta(2n+1) の表示」についてです。

様々な証明があるようですが、(2018年現在)高校生の私にはラマヌジャンによる原証明にはアクセスできませんでした。ネット上に上がっている文献は Berndt(読みがわからない)によるものや片山孝次さんのものがありますが、前者は outline だけで後者は n=1 の場合しか示しておらず、きちんとしたフルの証明が得られませんでした。
しかし今年3月の研究集会で加藤正輝さんに教えていただいた結果では、「二重余接関数のある種の加法型公式」の系としてかの公式の一般形が得られるそうです。私はコレに興味を持って勉強しました。2ヶ月。


結論から言うと、あまりよくわかりませんでした。


というのも、証明に出てくるゲルフォント-シュナイダーの定理(超越数で有名なアレ)の使い所がイマイチよくわからなかったためです。signed double Poisson summation formula が鍵を握っていることはわかるのですが、それ以上は。。。という状態。



ということで自力で (nが奇数の場合の、偶数のときは easy) 新証明を構築しました。少なくとも私が知ることのできる範囲では指摘されていませんでした。
いつしか話した ``4次元モノイドゼータ" の構成がおおいに役に立ちます。


さて
o-v-e-r-h-e-a-t.hatenablog.com
補題2の証明後すぐにある等式
\begin{eqnarray}\displaystyle \zeta_4^M(s)&=&\frac{1+e^{i\pi s}}{1+e^{\frac{i\pi s}{2}}+e^{-i\pi s}+e^{\frac{3i\pi s}{2}}}\left(\zeta(s)+\frac{(-2\pi i)^s}{\Gamma(s)}\sum_{n=1}^{\infty} \sigma_{s-1}(n)e^{-2\pi n}\right)\end{eqnarray}
が効いてきます。後ろの総和が
\begin{eqnarray*}\displaystyle\sum_{n=1}^{\infty} \sigma_{s-1}(n)e^{-2\pi n}&=&\sum_{n=1}^{\infty} \sum_{m=1}^{\infty} m^{s-1}e^{-2\pi mn}\\&=&\sum_{m\geq{1}} m^{s-1} \frac{e^{-2\pi m}}{1-e^{-2\pi m}}\\&=&\sum_{k=1}^{\infty} \frac{k^{s-1}}{e^{2\pi k}-1}\end{eqnarray*}
となることはすぐにわかります(ランベルト級数)。さて我々は今回 \zeta_4^M(-4k-2) を各 k=0,1,2,\cdots に対して求めていくことになります。ロピタルの定理を使うだけのちょっとした計算問題なので読者の皆さんにおまかせしますが、この表示から言えることは
\begin{eqnarray*}\displaystyle\zeta_4^M(-4k-2)=\frac{i}{\pi}(2\pi)^{-4k-2}(4k+2)!\left(\zeta(4k+3)+2\sum_{n\geq{1}} \frac{n^{-4k-3}}{e^{2\pi n}-1}\right)\end{eqnarray*}
です。

で一方、\zeta_4^M(s)=\zeta_2(s,1,(1,i)) なので(黒川ノーテーション)、今得た特殊値は多重ゼータの解析接続からも得られることがわかります。
ただ残念なことにその結果は一般的な形で書かれた文献がありませんでした(私が見た限り)。証明はかんたんで、例えば「現代三角関数論」§2.2の計算と全く同様にしてできるほか、片山さんと大槻さんの論文 ``On the multiple gamma function" の命題1には0と-1の場合における結果が与えられています。

ここで一般的に書くなら、まず多重ベルヌーイ多項式
\begin{eqnarray*}\displaystyle\frac{e^{-wt}}{\prod_{j=1}^r (1-e^{-\omega_jt})}=\sum_{n\geq{r}} a_{r,n}(w,{\boldsymbol{\omega}})\end{eqnarray*}
で定義すれば
\begin{eqnarray*}\displaystyle\zeta_r(-n,w,{\boldsymbol{\omega}})=(-1)^nn!a_{r,n}(w,{\boldsymbol{\omega}})\end{eqnarray*}
となります。これも演習問題でええか。



となればこれらの結果を等置したくなりますね!!!




後者の結果を我々の値のために具体的に書くなら
\begin{eqnarray*}\displaystyle\zeta_4^M(-4k-2)&=&\zeta_2(-4k-2,1,(1,i))\\&=&(4k+2)!a_{2,4k+2}(1,(1,i))\end{eqnarray*}
ですね。さらに、私が書いた今年の夏休みの自由研究にある命題2.1 (4)からこの定数をベルヌーイ数の積で具体的に書くことができます(これも証明はかんたんで、実際の自由研究では一般の多項式としての a_{r,n} に対して示しています。本記事では付録で証明)。つまり、
\begin{eqnarray*}\displaystyle a_{r,4k+2}(1,(1,i))=-i\sum_{j=0}^{2k+2} \frac{B_{2j}B_{4k+4-2j}}{(2j)!(4k+4-2j)!}(-1)^j\end{eqnarray*}
ですね。ここから先程得た値と合わせて、容易に求めたかった等式
\begin{eqnarray*}\displaystyle\zeta(4n+3)+2\sum_{n\geq{1}} \frac{n^{-4k-3}}{e^{2\pi n}-1}=-\sum_{j=0}^{2k+2} \frac{B_{2j}B_{4k+4-2j}}{(2j)!(4k+4-2j)!}(-1)^j\end{eqnarray*}
を得ることができます。

なおラマヌジャンの実際のリザルトはこれよりももう少し広い範囲(というか保型形式的な観点で)から見ているようなのですが、この手法をその定理に使えるまでに一般化できないかと模索中です。


[ほだい]

 k\geq{-r} にたいして
\begin{eqnarray}\displaystyle a_{r,k}(w,{\boldsymbol{\omega}})=\sum_{l=-|B|}^{|A|+k} a_{|A|,k-l}(a,A)a_{|B|,l}(b,B).\end{eqnarray}
がせいりつする. ここで B\neq{\emptyset}\{\omega_1,\cdots,\omega_r\} のぶぶんしゅうごうで, A=B\setminus{\{\omega_1,\cdots,\omega_r\}}, a,ba+b=w をみたすふくそすうとする.


[しょうめい]

\begin{eqnarray*}\displaystyle e^{-at}\prod_{j\in{A}} (1-e^{-\omega_jt})^{-1}&=&\sum_{L\geq{-|A|}} a_{|A|,L}(a,A)t^L\\e^{-bt}\prod_{j\in{B}}(1-e^{-\omega_jt})^{-1}&=&\sum_{M\geq{-|B|}} a_{|B|,M}(b,B)t^M.\end{eqnarray*}
であるから
\begin{eqnarray*}\displaystyle\sum_{N\geq{-r}} a_{r,N}(w,{\boldsymbol{\omega}})=\sum_{L\geq{-|A|},M\geq{-|B|}}a_{|A|,L}(a,A)a_{|B|,M}(b,B)t^{L+M}\end{eqnarray*}
よりわかる.


[しゃじ]

このほだいのしょうめいをかんがえてくれた、ぬ (@nu_un_nu_un_nu) くんにかんしゃします。


[さんこーぶんけん]
かたやま こうじ, おおつき まこと, ''おん ざ まるちぷる がんま ふぁんくしょん", とうきょう じゃーなる おぶ ませまてぃくす, ぼりゅーむ 21, なんばー 1 (1998), 159 ぺーじから 182 ぺーじ.
ぼく, ''じぇねららいずど すたーりんぐ ふぉーみゅら ふぉー まるちぷる がんま ふぁんくしょん", なつやすみのじゆうけんきゅう.