ある多項式について
この記事はこの曲を聴きながら読むのがオススメです:
Prince - 3121
Prince (Prince Rogers Nelson) - 3121, 2006 3121
さて今日は、わたくしたけのこ赤軍が半年以上に渡って悩み考えつつも答えを出せていないある問題についてのお話をしましょう。
まずはじめに、世の中には「二項定理」というものがあります。お読みのみなさんが高校生以上であるならば、数IIだか数Bだか知りませんがなんだかでやった覚えがあることと思います。
そう、
コイツです。
今ここで、適当に複素数 をとります。絶対値は1より小さいと考えて下さい。あるいは、あなたが複素数を何らかの理由でお嫌いなのであればq<1なる実数としていただいてもかまいません。
そんで、この二項定理に を代入してみます。そうして以下のように計算を続けていきます:
\begin{eqnarray*}\displaystyle1&=&\sum_{k=0}^n\binom{n}{k}q^k(1-q)^{n-k}\\\frac{1}{(1-q)^n}&=&\sum_{k=0}^n \binom{n}{k}\frac{q^k}{(1-q)^k}\\&=&\frac{q^n}{(1-q)^n}+\sum_{k=0}^{n-1} \binom{n}{k}\frac{q^k}{(1-q)^k}\\\frac{1-q^n}{(1-q)^n}&=&\sum_{k=0}^{n-1}\binom{n}{k}\frac{q^k}{(1-q)^k}\\\frac{(q;q)_n}{(1-q)^n}&=&\sum_{k=0}^{n-1} \binom{n}{k}\frac{q^k}{(1-q)^k}(q;q)_{n-1}\frac{(q;q)_k}{(q;q)_k}\end{eqnarray*}
出てくる記号の意味は
o-v-e-r-h-e-a-t.hatenablog.com
をごらんください。
さて、ここまで変形は追えたでしょうか。追えなかった人はもう一度落ち着いて自分で手を動かしてくださいね。
新しい記号を導入しましょう:
これがなんなのかといいますと、まぁ察しの良い方は気づいておられるのでしょうが、階乗のq-類似です。要するに、 となっているのです。
といいますのもこれは非常にかんたんな理屈で、上に挙げた記事でも言われているように整数 のq-類似は なので、これらを掛け合わせているだけなんですね。
この「q-階乗」をつかうと、いま導いた式は
というふうに書くことができます。空積の部分は慣例どおり1で計算してください。
ここまでよむと、「なんかq-階乗の関係式出して満足しとるぞコイツ変なやっちゃな」で終わるかもしれません。それでいいのならそれでもいいんですが・・・問題はここからです。
二項係数とはなんでしたか?そう、階乗を使って
と書けるものでしたよね。
では、これのq-類似ももちろん考えられるはずです。当然、
としたくなりますよね。
ところで、上記で導いた式には二項係数が入っておりました。式の大部分がqにまみれているわけですから、あれにも手を加えたくなりますね。
ですが、ここではqではなく新しい変数pを導入します。即ち・・・
を満たす多項式 を考えるのです。
これがたいそうむずかしい。ぼくが半年悩んでいるというのは、まさにこの、多項式 を明示的な式で書くことなのです。
この問題、考えるもとになったのは「q-二項定理」です。最初に挙げた二項定理、あれのq-類似は
となります。しかし、一般に「q-二項定理」といえばこれの「無限バージョン」、即ち
を指します。そう、q-二項定理には有限版と無限版があるのです。
ぼくはこの無限版のほうに着目しました。この定理において ととると、なんと無限q-Pochhammer記号の逆数のテイラー展開になっているのです。
こういってもピンとこないかもしれません。そんなあなたは、是非上に挙げたq-多重ガンマの記事を読み直して下さい。
もうおわかりでしょうか。
q-二項定理は、q-(一重)ガンマのフーリエ展開を与えているのです。
「"フーリエ"展開?"テイラー"展開の間違いだろ?」とお思いの方もいるかも知れません。ここでは本質的に同じなのですが、ぼくがわざわざフーリエ展開の名前を引っ張り出してきたのはq-多重ガンマに周期性があるからです。
記事では書いていませんでしたが、通常q-多重ガンマを考えるときには上半平面上の変数 をとり、 とおいて考えます。このとき、
となります。証明は easy なので読者の演習問題とします。
要するに、q-二項定理(の特殊バージョン)をq-ガンマでかきなおすと
という風になるわけですが、これは変数 に関して周期 をもつがゆえの話なのだよ、と言っているのです。
でもぼくは物足りませんでした。案の定というかなんというか、
とかやって、係数を求めようとしたのです。悲しいかな、多重化人間の性ですね。
しかしこれが存外に難しい。q-二項定理の証明と同じようにやっても、まるで歯がたたないのです。
しかたないので、二重バージョンに限って考えることにしました。もとのモチベーションでいうなら・・・
として定義される の有理関数 を調べようとしたのです。
考えるうちにすぐわかったこととして、分母が である、即ち
としたとき、 は多項式になるというのです。これがまさに先程話題にした多項式 のことです。
ところが、計算しても計算しても手がかりは得られませんでした。最初の10項ぐらいを求めて帰納法でゴリ押しを試みるも、規則性は全く思い浮かばず。かろうじてわかったことといえば・・・
(1) 対称的、即ち である
(2) 特殊値はq-階乗になる:
(3) 最高次の項は斉次、即ち と書けて、次数は として求められる
の三つです。うーん、わからない。
この多項式 についてなにかわかった方がいらっしゃったら、この記事のコメント欄か、ぼくの twitter @691_7758337633 まで教えてください。
些細な情報、手がかりでも構いません。どうか宜しくおねがいします。