複素変数大野関係式
この記事はこの曲を聴きながら読むのがオススメです:
The New Power Generation - Get Wild
Prince (New Power Generation) performing 'Get Wild' on The White Room
ゼータ Advent Calendar 2019 - Adventar へようこそ。本記事は 10 日目の記事です。
最初に、本記事の完成が盛大に遅れたことをお詫び申し上げます。2 日目の記事もすぐ仕上げます...
前回に引き続き大野関係式の話です。前回の記事は
o-v-e-r-h-e-a-t.hatenablog.com
を、大野関係式自体の仔細は
をご覧ください。
さて今回はこの論文
[1808.07203] An interpolation of Ohno's relation to complex functions
の主定理についてお話します。これは大野関係式の「複素数への補間」をもたらします。
とりあえず大野関係式についての (前回のほぼコピペですが) 復習を。
を正整数とし、 を正整数 個の組とします。このような をインデックスと呼びます。最後の成分 が 以上のとき、 を許容インデックスと呼びます。
許容インデックス に対し、多重ゼータ値 (multiple zeta value, MZV) を以下で定義します:
が許容的なのでこの級数は収束します。
次に双対性を state します。許容インデックス は正整数 による一意な表示
を持つので、これによって を
と定めます。
このとき、次の定理が成り立ちます:
[定理 (双対性)]
許容インデックス に対し
.
これだけでも非常に美しく非自明な定理なのですが、大野関係式はこれをさらに強くします。非負整数 と許容インデックス に対し大野和を以下で定義します:
ここで、和の変数 は非負整数 個の組であって各成分の和が であるようなものをわたり、 は各成分ごとの和とします。以降 は省略します。
このとき、大野和に対しても双対性が成り立つ と主張するのが大野関係式です。当然 とすれば の双対性が得られます。
さて複素補間を考えていきます。許容的とは限らないインデックス と複素数 に対し
と定めます。ここで積の条件 は でない整数 をわたるものと約束します。
この関数 が大野和の一般化になっていることを次の補題で確認します。
証明.
各 に対し
とおきます。補題の両辺の に関する母関数をとって、
を示すことにしましょう。両辺に の積をかけることで分母を払い、示したい等式が
のように変形できるので、Lagrange 補間
が適用できます。具体的には 点 に対し Lagrange 補間を適用することで上記等式が示せます。[証明終わり]
この補題を大野和の定義 (多重ゼータ値の線型和のほう) に適用することで、複素変数の で としたものと一致することが確認できます。
次の補題は有名です (証明は Apostol の教科書 Introduction to Analytic Number Theory などを参照)。
各 に対し
は明らかに Dirichlet 級数です (カッコ内の和では を固定していることに注意)。なので、必然的に も Dirichlet 級数です。 とおけば、大野関係式より非負整数 に対し は に依存せず定まります。従って と選ぶことで補間大野和とその双対 は補題 2 の仮定を満足し、 がいえます。これが示したいことでした。[主定理の証明終わり]
Acknowledgements. 原論文の Lemma 2.1 (本記事での補題 1) の証明を教えてくださった Oddie さん @math_elliptic、ADE さん @grand_antiprism、Kuma さん @notori48 に感謝します。こいついつも最初の補題の証明人任せだな