たけのこ赤軍の自由帳

多重ゼータ値とNona ReevesとKIRINJIとRHYMESTERとPrince

【ライブレポート/ネタバレ含】KIRINJI LIVE 2022 Day 2: 10/18渋谷クラブクアトロ

この記事はこの曲を聴きながら読むのがオススメです:
KIRINJI - Rainy Runway

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前置き

行ってきました!!!KIRINJIワンマン!!!!

彼らを真面目に聴き始めてからまだ1年半とかなんですが、ライブは今回で4度目。初めて行ったのは昨年8月の「再会」リリースライブ (@Zepp羽田)で、それから年末のcrepuscularリリースツアー(@ZeppDivercityお台場)、直近だとコロナ禍で延期になってしまった公演の振り替えでもある、絵本「あの人が歌うのをきいたことがない」リリースライブ(@BillboardLive大阪)に参加しました。大阪のは3月頭だったから、実に7か月もの間を開けて参戦です。しかもビルボードのときは比較的少人数の編成(Dr楠さん/Baチガちゃん/ピアノ林さん)だったので、きっちりバンドで見られるのは約1年ぶり。もっとも近いリリースとしてはシングル「Rainy Runway」があったため、これに伴う (フェス等への出演はあったようですがフォローできず......) ライブのような性格が強いのかな、と思って行きました。

しかも、今回会場となった渋谷Club Quattroは僕が毎年欠かさず見に行っているNONA REEVESのクリスマス定期イベント「ノーナとHiPPY CHRiSTMAS」の会場でもあり、10月にクアトロで、しかもノーナ以外を見るというのがすごく新鮮に感じました。だいたい僕にとってはライブ参加そのものが4月末(Creepy NutsRHYMESTERの対バン)から無かったので半年ぶりに得られる高揚感なのです (8月末にBattle SummitでAwichのライブも見られましたが、あれはシークレットゲストだったということでノーカンで......)。

開場前に少し時間があったので、一緒にチケットを取った友人とガストで腹ごしらえをしつつライブ前恒例のセットリスト予想談義をしたのでその一部を。
「KIRINJIってあんまりバンドメンバーにボーカル表記しないけど、今回はたしか鍵盤で入ってる人 (注: 小田朋美さん) が "Syn, Vo" って書かれてたんだよな。女性ボーカル曲やるのかな」
「編成考えると6人体制の初期とかもありそう」
「シンリズムいるから雲吞ガールはいよいよ定番ぽいし、ってなると "だれかさんとだれかさんが" とか?あとは "Mr.Boogieman" とか、最近だと高樹がハングルラップやってた "killer tune kills me" もあるね」
「一人体制になってからは兄弟時代の初期曲をだんだん解禁しつつある気がする。一年前まで "千年紀末に降る雪は (注: 現体制では2021年12月に初披露)" とか "ダンボールの宮殿 (注: 現体制では2021年8月に初披露)" とか考えられんかったもん」
「今回もその枠はあるよなぁ。"Drifter" 待ってるぞ」
「兄のソロからなんかあるかなぁ。"絶交" か "冬来たりなば" か」
「おれは "涙のマネーロンダリング" と "雪んこ" がいいな」
「"Rainy Runway" は絶対外さないだろうから、雨つながりで "雨を見くびるな" はあって良い気がする」
「今回オールスタンディングだから、向こうもそのつもりで作ってきてるはず。こないだのフェス (注: SUMMER SONIC 2022) でもやってたみたいだし "都市鉱山" あるんじゃないか?」


さてこいつらどれだけ当たっているんでしょうかね。いざ会場へ。
番号は友人と連番でA199とA200。クアトロの番号システムを把握しているわけではないのですが、経験に即して言えばAがついていれば割といい方です。実際、前から6,7列目のボーカル正面というベストポジションを頂けました。

スタート~MC2

フロアに到着し、立って待つこと約30分。
客電が落ちて聴こえてきたのはテンポの速い軽快なシンセのイントロ。早くも予想的中、だれかさんとだれかさんが からスタート!
立ち位置はセンターにVo/Gt高樹さん、それを挟む形で上手側にGtシンリズムさん、下手側にSyn/Vo小田朋美さん。ステージ後方は上手からKey宮川純さん、Dr So Kannoさん(BREIMEN)、Ba千ヶ崎学さんというポジション。コーラスは前方二人が酷使される流れっぽい。
1番のサビ後にある名フレーズ "甘い雨降る木曜日" で実感しましたが、それにしても小田さんの歌の上手いことよ!そりゃボーカル表記されるわけだ。今回は終始この人に驚かされ続けました。

早めに1回目のMC。「実はこういうバンドでのワンマンは今年最初で最後」という少し寂しい事実も明かされつつ、2曲目の定番 非ゼロ和ゲーム へ。"イカロスの末裔" 以来のファンキーさは相変わらずですが、"利他的に 利他的に" のフレーズ後半で前列3人のコーラスが重なるのが美しかったです。
続いて、同アルバム "愛をあるだけ、すべて" からのミッドナンバー 新緑の巨人 も披露。ここ一年は高樹さんの歌が異様に上手くなっている気がするのですが、それが遺憾なく発揮された一曲でした。どうでもいいけど間奏の テンダブィ~ みたいなの本当はなんて言ってるんですかね

そして「ボーカル・小田朋美」の真髄ここにあり、とでも言いたくなるクオリティの killer tune kills me!!原曲の弓木さんパートを小田さんが、YonYonさんの韓国語ラップパートを高樹さんが担当。このスタイルはMaikaさんを呼んだ去年12月のライブでも見られたやり方だったので、今後も女性ボーカルがいるときは定番になるんじゃないかという感覚です。それにしてもサポートメンバーが "I want to cherish my tune" って歌うときのえもいわれぬ感覚はなんと表現すればいいんでしょうか。決してネガティブな意味ではないんですが。

この辺で「昔の曲」枠その1、兄弟時代のアルバム "7 -seven-" から タンデム・ラナウェイ をパフォーマンス。これは2020年のバンド体制ラストライブで演っていましたが、それ以来ということでいいんでしょうか (間違っていたらすみません)。自分でアルバムを聴いているだけだと永遠に気づけない「新緑~キラチュン~タンデム」というような綺麗な流れを教えてくれる、っていうのもライブの醍醐味のひとつですね。


5曲終わったところで2回目のMC、「今回は同期なし、生演奏だけで合わせている」という衝撃の事実が発覚。マジかよ
ついでに少しだけメンバー紹介の時間がありました。銭湯に生息する謎の爺さんトークもそこそこに次の曲へ。

MC2~MC3

気を取り直して6曲目は 薄明 で再びゲストボーカルを生かしたプレイ。フランス語も難なくこなす小田さんは流石といったところ。その直後に歌詞飛んで1番もっかい歌う高樹はなんなんだよ
アウトロで少しずつ楽器を減らしながら "La la la..." のコーラスが取り残されていくアレンジには初めて出会いました。曲の雰囲気にピッタリ。

ついでにもういっちょ客演曲、アルバム "cherish" から Almond Eyes をパフォーマンス。最近の定番曲ではありますが、流石に鎮座Dopenessは何回も呼べないのかMELRAWが大胆なサックスソロで弾けている印象があります。(昨年のライブは2回ともそうでした。2020年のスタジオライブも確かそう?)
しかし今回はホーン抜きの編成、どうするのかと思いきやまさかのシンリズムがギターソロで大暴れ。あまり弾いているときに体を動かすタイプではないですが、表情を見ているとゾーンに入っていたのは誰の目からも明らか。

少し怪しげな盛り上がりの後は、まさかの silver girl
待ってました。本当に待ってました。去年のcrepuscularのツアーは二日構成だったうちの二日目のチケットを取ったのですが、一日目の開場前に居ても立ってもいられず会場に向かって物販でパーカーだけ先に買ってしまったのです。新品のKIRINJI一色な服に身を包んで、東京テレポート駅りんかい線を待ちながら「明日silver girlやってくれないかな〜〜〜」とかツイートしたのを未だに覚えています*1。この夢が一年越しに叶うとは。
余談ですが、僕はキリンジ/KIRINJIの楽曲には「大箱曲」「小箱曲」があると信じています。
文字通り会場のサイズによって良さが増幅される楽曲、というぐらいの意味で言っていますが、"silver girl" は小箱曲の代表という感じがします。ここまでの曲だと "非ゼロ和ゲーム" なんかもそうですね。
逆に大箱でバッチリ決まる曲といえば "進水式" "日々是観光"、泰行さんの曲ですが "スウィートソウル" とかでしょうか。



そして今回の懐古(?)枠。兄弟時代から 僕の心のありったけ が解禁です。
厳密にはバンド期でも2015年のツアーとかでやっているので特に封じていたわけではないでしょうが、まぁ久々ということで。去年8月の "ハピネス" とかと同じ枠ですね。
にしても兄は歌が上手くなったなぁ。この曲の個人的ベストテイクは2003年の武道館なのですが、そこも飛び越えてCメロが本来のあるべき姿になったという気さえします。

からの ロッコロマネスコ、最新アルバムからインストを一曲。
ともすればバンドのインストというのは箸休め扱いされがちですが、この曲のとくにライブ版はそのような下馬評とは無縁の代物です。
原曲は角銅真実さんをマリンバ担当に迎えた豪華なアレンジでしたが、今回の編成ではなんというか、ステージ上の全員が均等に超忙しい、なかなかハードなアレンジで勝負に出てこられました。直後のMCでは高樹さんが「自分はあのフレーズがどうしても弾けない」とこぼす一幕も。

ここのMCでは「ステージ上の眼鏡率(3/6)が高すぎる」という問題点(?)が槍玉に上げられました。高樹さん最近はご自分の眼鏡いじり率も大概ですよ。

MC3~本編ラスト

「楽しい曲をやろう」と意気込んで始まる11曲目 雲吞ガール、これも当たり!
最近のライブではアウトロでキーボード担当(去年は岸田勇気さん)が超クールなソロを披露する流れがありますが、今回も宮川さんがブチかましてくれました。
シンリズムさんが「嫌です」担当から解放されて心なしかほっとしていたように見えたのは僕だけでしょうか。

ダンサブルな流れのまま 「あの娘は誰?」とか言わせたい に突入!!!これ僕のほんっっっとうに大好きな曲で、キリンジ・KIRINJIの全キャリア通してもトップ3は固いです。
今回はまさかのAメロのボーカルを小田さんと高樹さんの二人体制で歌うスタイル。
クアトロには珍しく(?)ステージ後ろのスピーカーやライトの隙間がごく小さなスクリーンみたいになってエフェクトが投影されていたのですが、これがまた曲のムードにぴったり。堀込高樹さんの書いた歌詞で個人的に一番好き*2なのはこの曲のブリッジ、

そう、本当の君はマッチ売り
雪に埋もれて眠ってる
朝が来て みんな見て見ぬふり
死にたいってのは生きたいってことかい?

なのですが、このパートでスクリーンに星空の映像が浮かんでいたのが完璧すぎて言葉も出ません。


浮遊感溢れるビートの余韻を残したまま次曲のドラムカウントが始まり、まず聴こえたのは大胆なベースソロ。
グルーヴィー極まる8小節ではありますが、聴き覚えがあるかと言われると微妙。
新曲かな、と思うやいなや雪崩れ込んでくる暴力的なシンセ。これ Golden harvest だったのかよ!!!
2016年品川ステラボールでこの曲をやったときの音源は100や200ではきかないぐらい聴いている自信がありますが、今回のシンリズムさんのプレイは本当に弓木さんの生き写しのようでした。ライブには新鮮な音を楽しみに来ているわけですが、聴きたい音が聴きたいとおりに入ってくるというのもまた何ごとにも代えがたい喜びがあります。






最高のギターソロを堪能し、アガる曲を3つ続けてやったんだから少し抑えるかな、と思った矢先ですよ。
ドラムカウントの代わりみたいな顔して出てきたのは、あの一回聞いたら忘れないシンセのフレーズ。

都市鉱山きちゃ~~~~~~~~!!!!!!!!!!ウヒョ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

これ!!!!!!!!!これだよ!!!!!!!!!!!!!!!!!!俺が見たかったのは!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
キリンジもKIRINJIも堀込兄弟ソロも提供も客演もひっくるめて俺がいっっっっっっちばん好きなの都市鉱山なんだよ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

これをお読みの皆さん、頼むから、一回でいいから聴いてください。。。
Youtubeで「キリンジ 都市鉱山」とか探せば原曲もライブも見つかります。ニコニコだったらさらに別テイクも見つかります。

現存している都市鉱山の音源は(僕が把握している限りで)9種類あって、
・アルバム "Buoyancy" 収録の原曲、2010/9/1
NHKホール、2013/4/12
・梅田クラブクアトロ、2013/12/20
昭和女子大学 人見記念講堂、2014/11/15
・EX THEATER ROPPONGI、2015/11/21
・梅田クラブクアトロ、2015/11/25
・EX THEATER ROPPONGI、2017/12/6
NHKホール、2020/12/9
NHKホール、2020/12/10
という具合で、兄弟時代の上二つは原曲のテンポ通りですが、バンド編成では演奏がかなり速くアレンジされています。この中でいちばん速いのは2017年の六本木(BPMがだいたい148。原曲が127)ですが、今回はこれにも劣らないぐらいのスピードでびっくりしました。
願わくば............ 歓声さえOKなら........................ レアメタルの名前連呼するパートがさらに500倍楽しかったんだけどな........................






思いがけないタイミングで一番好きな曲が来てしまってかなり気が動転していたのですが、生で聴けた感動を冷ますだけの時間は与えられず。
無情にも始まった次の曲...... も心なしか似たパターンで、シンセの強い主張と一度聴いたら忘れないビート。


そうそう、あの曲ですよ。みんな知ってるでしょ。
ほら、アレだって。ちょっと名前出てこねーや。

歌いだしがね...... え~~~と...... たしか......

「こいつはまさしく 太古からのメッセージ アイス・エイジからスペース・エイジ」



って殺す気か!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!



はい。
Golden harvest、都市鉱山と来て The Great Journey です。
僕の音楽趣味に多少理解のある人なら、僕が日本語ラップ好きで、中でもRHYMESTERがフェイバリットなのはご存知かと思いますが、まぁそんなヤツがこんな曲を全く予想してないタイミングでぶち込まれたらこうもなります。
KIRINJI単独*3でのThe Great Journeyはいくつか映像が残っていて、とくに原曲でのDさんのバースでは玄さんや女性陣がマイクリレーをしていたのが覚えにある方もいると思いますが、今回はなんと全ラップパートを高樹さんがひとりで担当。大変だなぁ。満室~~~~~~!!!!



ようやくここでひと段落。MCの最初に出た高樹さんの「いや~......」で観客から笑いが漏れたあたり、とんでもない構成に腰を抜かしていたのは自分だけじゃなかったようでほっとしました。
ワンマンにしては少し早めの「次で最後の曲です」から、今年に出た Rainy Runway で本編〆です。新曲なんだけど、この流れの後だと安心感がすごい。
スタジオの音源よりも高樹さんの声が優しくなっている気がしてなりません。

アンコール

再登場後のMCではグッズ紹介。
眼鏡型のキーホルダーが新商品として出ましたよ、の報。正直何も買うつもりはなかったのですが、実物を目にして両カラー(黒/クリアイエロー)買ってしまいました。


そうして始まったアンコール1曲目はもはやおなじみの 再会
生で聴くのは3回目ですが、回を追うごとにこれまた優しくなっているような気がします。この曲で描かれた当たり前の未来までもうすぐと信じて。



とくにMCが入るわけでもなく、次曲へ。
BPM120の単調なドラムパターン。これは聴き覚えある... "汗染みは淡いブルース" の日比谷のアレンジだよな?と思ったんですが。



まさかの!



まさかの!!!!!




悪玉!!!!!!!!!!!




今日いちばんの驚きでした。これだけは絶対にやらないと思ってた。
少しだけキリンジ/KIRINJIの歴史について (今更ながら) 述べると、もともとキリンジ堀込泰行・高樹の兄弟からなるバンドで、二人のどちらかが作詞・作曲を同時に担当することがほとんどでした (要するに、作詞と作曲がずれることがほとんどない。少数ながら例外もありますが)。ファンはこれを泰行曲とか高樹曲とか言って区別することが多いです。
2013年にふたりが袂を分かってからは (泰行さんがソロとして、高樹さんが名前を引き継いでKIRINJIとして) 活動する中で、お互い自分の曲はそのまま引き継いでライブ等で演奏してOK、という暗黙の了解がありました。たとえば今回のライブで披露された "タンデム・ラナウェイ" や "Golden harvest" などはいずれも兄弟時代の楽曲ながら、高樹さんが作詞・作曲を担当しています。
逆に言うと、(公式として、兄弟仲は良好だということは強調されています。そのうえで) 兄弟の曲としての色が強い、とくに初期の曲は避ける傾向にある、ということでもあります。もちろんそういうスタンスが明文化されたというわけではありませんが、たとえばKIRINJIとしての活動が2013年に始まって2020年にバンド編成を解消するまで、兄弟時代に出したアルバム1枚目~4枚目の楽曲は一曲しか披露していません(2016年のツアーにおけるP.D.Mのこと。間違っていたら情報ください)。
ところがそのやり方が現体制になってから少し緩和されてきて、冒頭で友人と話していたように "ダンボールの宮殿" (2枚目) とか "千年紀末に降る雪は" (3枚目) とかが演奏されるようになって、少しずつ解禁されてきたという感覚がファンの一部(少なくとも僕と友人)の中にはありました。

そういう意味で "悪玉" はアルバム3枚目に収録された所謂 "高樹曲" であり、昨今の流れに乗って披露されてもおかしくはありません。
しかし、その中でもこの楽曲は少し特別な意味を持っています。なんといっても、2013年4月12日に開催された兄弟としてのラストライブの最後の楽曲なのです。
3回もアンコールを繰り返した果て、最後の最後、兄弟として15年続けた「キリンジ」を締めくくる楽曲として披露された "悪玉" ですから、ある意味で最も兄弟の楽曲としての色が強いといっても過言ではありません。
そんな曲を果たして高樹さんが現体制でやるのか、と言われれば「まず間違いなくやらないだろう」というのが僕の感覚です。


が、しかし!!!
ついに "悪玉" を現体制で聴ける日がここにやってきたのです*4
もちろん全編文句なしの名曲なのですが、個人的には2番の「マイクよこせ早く」からCメロまでの間奏でものすごく感動しました。
2013年の兄弟ラストライブで演奏されたときは、本当に最後の最後に演奏する楽曲なので、この間奏に「15年間続いた、キリンジとしての堀込泰行に残された最後の時間」という思いを感じずにはいられないのです。
言い換えれば、今回の演奏ではそのような寂寥感にとらわれず、本来の音の美しさを浴びられたという満足がありました。



長々と語ってしまいましたが、悪玉の衝撃もそこそこにライブは本当に最後の曲へ。
この素晴らしいワンマンライブを締めくくるのはKIRINJIを象徴するダンス・チューン、時間がない でした!
高樹さんが50歳を目前にして、人生の残り時間を意識し始めて作ったという楽曲でしたが、そのリリースからもう4年経っているというのも事実です。「永遠はもう半ばを過ぎてしまったみたい」という (中島らもさんのサンプリングですが) 詩的極まるラインにこの楽曲の大事な部分が詰まっていると思います。

おわり

物販は眼鏡キーホルダーだけじゃなくてシャツも買っちゃいました。。。フェスとかどれも行けなかったんだから仕方ないよ。うん。


なんというか、改めてセットリストを眺めてみると2020年のバンド体制ラストライブを強く意識している感じがしますね。実に11曲も重複しています。
ですが、例えばThe Great Journeyと都市鉱山の部分だけ抜粋してみても、2年前は曲が逆順だったり鎮座Dopenessがいたりで、魅せ方を巧妙に工夫してまったく別のライブに仕上げられています。

もう "新生KIRINJI" とか言えないぐらい時間が経ちましたが、さすが堀込高樹、進化が留まるところを知りません。
最高のライブをありがとう!みんなアーカイブ買って見よな。

www.kirinji-official.com


Setlist:
1. だれかさんとだれかさんが
2. 非ゼロ和ゲーム
3. 新緑の巨人
4. killer tune kills me
5. タンデム・ラナウェイ
6. 薄明
7. Almond Eyes
8. silver girl
9. 僕の心のありったけ
10. ブロッコロマネスコ
11. 雲呑ガール
12. 「あの娘は誰?」とか言わせたい
13. Golden harvest
14. 都市鉱山
15. The Great Journey
16. Rainy Runway
17. 再会
18. 悪玉
19. 時間がない

*1:

*2:同率一位は同じ曲のサビ「bright night 週末のシンデレラ インスタなら南瓜は馬車に」というフレーズです。一見 "インスタ映えを狙う現代のシンデレラ" みたいなモチーフを描いていて、この時点で強烈な着眼点だと思うのですが、ある時この曲を聴いていて「24時に解けるシンデレラの魔法」と「24時間で消えるインスタのストーリー」が掛かっていることに気づいて鳥肌が立ちました。

*3:ゲストがいるときはゲストに歌わせることが多いです。とくに2020年NHKホールのDVDには「鎮座がライムスのリリックを歌う」という日本語ラップの全ヘッズが目を疑う衝撃映像も収録されています。

*4:プロレスの曲ということで、今月亡くなったアントニオ猪木さんへの追悼かな、と思わないでもないですが...... 考えすぎでしょうか?

【ライブレポート/ネタバレ含】Creepy Nuts TWO MAN TOUR「生業」4/30大阪

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Creepy Nuts - 生業

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今年の年明けぐらいからCreepy NutsとかRHYMESTERにものすごくハマっています。どういうわけだか。
そんな折にCreepyがライムスと対バンをやるぞ、という情報を目にしたらもう行くしかないワケです。これは俺のためのライブや。

ということで、帰省がてらに2022年4月30日、Creepy Nuts TWO MAN TOUR「生業」w/ RHYMESTER at Zepp Osaka Bayside に参加してきた話です。とはいえ2週間ほど空いたのでかなり記憶が曖昧です。


個人的には日が浅いのもあって両グループともそこまで深く掘ってるわけではなく、例えばApple Musicの「はじめての~」みたいなプレイリストなら全部わかるけどもマイナー曲になるとなぁ、というぐらいの感覚でした。普段はNona ReevesだのKIRINJIだのPrinceだのと当たり前に全曲知っているグループの (トリビュート) ライブ、しかもワンマンばかり行っているので、かなり新鮮。両グループはもちろん、ヒップホップのライブ自体も初めてでした。

Act 1. RHYMESTER

最初に見えたのはDJ JINのパワフルなシャウト。RHYMESTERをちゃんと聞き始める前はノーナとかKIRINJIで断片的に知っていただけだったので、こんなに口上で叫ぶ人なんだっていう自分の中でのキャラ崩壊がすごかったです。ともあれ、彼の口から「生業!!!」と聴けただけでも、両グループの関係を知っていればかなりアツい展開*1

そこから1曲目 ONCE AGAIN のイントロ。ぼくがRHYMESTERの名義では初めて聞いた曲でもあります。曲が始まるときに宇多丸さんが「人差し指を挙げろ!」みたいなことを言ってて、一発目からくるね~~~~~~~ってなりました。
ライブ翌日に知り合いと会ってセトリ見せたら「ONCE AGAINから始まるの激アツやなぁ」。わかる

そして (一応) 最新アルバム「ダンサブル」から定番になった Future is BornBack & Forth の流れ。ノーナファンを何年もやっているとFuture is Bornのポップ全振り感が楽しくってしょうがないです。「空に手を挙げて!バカみたいにブンブン振れ!」に参加できたの嬉しかったです。さらに生で一番聞きたかったBack & Forthを早くも3曲目に叩き込まれたぼくは気が狂ってしまい、このあたりから記憶が薄め。

宇多丸さん曰く、DJ JINの手元には2つのターンテーブルと2つのアナログレコードがあり、これがヒップホップの最も古典的なスタイルだと。それを今から皆さんにお教えします、と始まったのが ライムスターイズインザハウス!これも大好物です。Mummy-Dさんの「前後 前後前後 神の腕が生み出す言語」も生で見れてほんと~~~によかった。
からの続きで Deejay Deejay。「この世のすべてのDJに捧ぐ」という口上でかなりアガりました。最近ご無沙汰ですが僕も一応DJの端くれの端くれなんです。

さらにMCで「Creepyからのリクエストがあんまりにもしつこいから、20年前に作ったはいいもののライブで一度もやったことない曲をやる」と。これはおれの知らない曲だな、と思いましたが、始まった 前略 のカッコいいこと。Back & ForthのDさんは「初めましてのYouも馴染みのYouも余裕でまとめてRockしちゃう」なんて言ってますが、まさに有言実行でした。これが20年前のライムスターの実力なんだよな
余談: 全然気が付かなかったんですが、このとき2FのバルコニーみたいなところにRさんがいたそうです。めっちゃ踊ってたらしい。見てればよかった~~~

前略からメドレーで繋いだのはまたまた僕のお気に入り曲 グレイゾーン!これまた耳に残る曲です。去年のMTV Unpluggedのライブでは生バンドを携えた大胆なアレンジですげーカッコいいんですが、オリジナル版のトラック特有の不穏な感じも中毒性が極めて高くって、こっちを聴けたという大収穫でした。

さらにさらに、一曲というよりは口上的なラップの The R から再び初期曲の B-BOYイズム。2020年のRADIO EXPO 2020でCreepyとライムスが共演したときこの曲をやってた (音源は某動画サイトにあります) ので、じゃあ逆に今回の共演曲はこれじゃないんだな、と妙なメタ読みを挟みつつ。

一方で同ライブではB-BOYイズムだけじゃなくもう一曲共演してるんですが、まさか今日も............と思った矢先に K.U.F.U.!!!!!!予想的中。これもBack & Forthと並び生で聴きたかった曲同率ナンバーワンでした。Dさんバースの「だから今日はエコーも無しでダブルも無しで バカでもできるフローで殺す バカでもできるライムで殺す」で音が消えて (この演出はライブ限定!) 本当にラップで殺しにくる感じが大好きなんですが、バッチリ目に焼き付けました。

そして最後のMC。現在進行形でドンパチやっているロシア&ウクライナに触れ、「踊って楽しむこともレジスタンスですから」と啓蒙ダンスチューン The Choice is Yours で締め。まだ声は出しちゃマズい世の中ですが、終始腕をブン回して手を叩きまくる擬似的コール&レスポンスの嵐でした。Dさんの「PEACE FOR UKRAINE!」の叫びと黄/青カラーになるステージ照明が粋。

Act 2. Creepy Nuts

小休憩を挟み、客電が落ちて流れたのは「夢にまで見たイカしたhard day's night こりゃどうもしゃあない今日もまた眠れない」のフレーズ。一曲目は最新アルバム「Case」からシングルカットもされた Lazy Boy でした。ライブ前半のONCE AGAINとか、去年8月に行ったKIRINJIワンマンの「雑務」のときもそうだったんですが、生で初めて見るアーティストの一曲目は感極まって記憶がなくなりがち。

そしてMC (ここだったかな?もしかしたら3曲目のあとかも) では「何から話そうかな」ときて、まずは松永さんのコロナ全快話かな?と思ったらR-指定から「あのオッサンらヤバいなぁ」と爆弾発言。めっちゃわかる
Rさん曰く「前略とかグレイゾーンとか全然聞いてない。Creepy用に渡されてたライムスのセトリには "Deejay Deejay→ちょうどいい→ナイスミドル" って嘘ばっかり。どこがやねん!」。どうも前略リクエストはサラっとかわした振りしてしれっと演る、というサプライズだったらしいです。後でDさんが更新したRHYMESTER公式ブログ
starplayers.jp
には本当に偽セトリの画像が上がっててめちゃくちゃ笑いました。

2曲目は よふかしのうた。どうやら札幌公演でもアドリブ入ってたらしいですが、原曲の「お前に手を引かれて 出向いた土曜日の溜まり場」というパートが「KING OF STAGE引き連れて 帰ってきた地元大阪」に変わってて泣きそうになるなど。松永さんのプレイも数日前まで床に伏せていたとは思えないキレ。

からの3曲目、まさかやるとは思わなかった僕の一番お気に入り曲合法的トビ方ノススメ!!!全く予測してなくって、イントロが聞こえた途端に感情がぶっ壊れるあまり「めっちゃ飛び跳ねるからカバン踏んだらあかんなぁ」と妙な冷静さを発揮したのを覚えてます。それ以降はぶっ飛びすぎて本当に記憶がありません。

んで、合法的にトリップして息も絶え絶えになった身体に飛び込んできたのは知らないイントロでした。明るめのJ-POPに振ったノリの良い、それこそ「Case」で顕著だった作風の曲だったと思うんですが、帰って調べてみるとまだ配信もしていない新曲 2way nice guy だったそうです。
ハッピーな曲調から180度ひっくり返して重めの不穏なイントロ、5曲目は満を持してツアー表題曲 生業。ライブ映像は幾度となく見ているのですが、やっぱり後半の早口パートも生で歌えるんだなぁ。。。。。。と呆然としてました。

そして「よふかしのうた EP」つながりで 阿婆擦れ。最後の「I love hip hop だが hip hop don't love me/引っ叩かれてもっと fuck me」というフレーズがとにかく秀逸だなって聴くたびに思います。
3月に出た新曲 パッと咲いて散って灰に もこの流れで聴けました。この曲や2way nice guy、同じく3月に出たYOASOBIメンバーとの新曲「ばかまじめ」もそうですが、次のアルバムは「Case」のポジティブな感情をさらに昇華させたコンセプトになりそうですね。とはいっても、そういう曲ばっかりシングルカットしといていざ出すときには「デジタルタトゥー」とか入れてしまえるのがアルバムリリースという形態の良いところではあります。

さらにこの空気を引き継ぐ のびしろBad Orangez のメドレー。短めのスパンでクラップしたり手を振ったりと忙しい曲たちです。Bad Orangezではちゃんと照明がオレンジ一色になる演出も。
そろそろ終わりが近いかな、と思ったところに間髪入れず聴こえてきたのが かつて天才だった俺たちへ の重厚なイントロ!ちょっと意外でした。武道館公演とかSony Parkのライブとかで顕著ですが、ちょっと語り掛けるような重めのMCを入れてから力を入れ直すように始める曲、という印象が強かったのです。この曲を肩肘張らず歌いこなせるようになったぞというある種のセルフボースティング、というのは深読みでしょうか。

今度こそ締めのMC。「生業ツアーがコロナ禍で一旦流れて、2年越しの実現となった今回の公演だけど、2年前じゃできない曲もたくさんあったし、大先輩引っ張って対バンできるような実力もなかった」としんみり語ってからの最終曲 土産話!生業ツアーとは銘打っているものの、やはり「Case」のレコ発ツアーの最後、という性格が強い選曲のように思いました。


Act 3. RHYMESTER feat. Creepy Nuts

R-指定の最後のMCと「土産話」で観客席の雰囲気が感動100%だったところに「ウェイwwwwウェーイwwwww」と叫びながらステージに入ってくるMummy-Dさんが僕はすごく好きです。

そんなわけで「ヤバいオッサンら」が舞い戻るも、空気が空気なのでコラボをかなり渋るという茶番をこなす宇多丸さん。MC3人がコントやってる後ろで松永さんの刈り上げを撫でてニコニコしてるJINさんが本日のMVPでした。

いい加減やろう、とRさん。(今度こそ) 最後の曲は「素人やった俺が "ラップやってもいいんや" と思わせてくれた曲」、ザ・グレート・アマチュアリズム!Creepyの二人が何度もラジオ等で話しているお気に入り曲です。記憶している限り、Dさんの「チリも積もれば~」、「ネェ社長サン~」の部分はR-指定でした。宇多さんのバースの後半 (「ただし時に~」) はRさんとの掛け合い。しかし流石に日本一のラッパー、当然のようにアウトロでフリースタイルをかましてこられました。最後に入れてきた

前略 ブルーなケツしたナイスガイ
ただしオレたちのルーツはあくまでアンタらだと言っておきたいぜ

で感情が爆発しました R~~~~!!!RADIO EXPO 2020で共演したときK.U.F.U.の途中でDさんが「ただしお前らのルーツはあくまでオレだとは言っておきたいぜ」とCreepyに向けて歌ってたんですが、それに対するアンサーを2年越しに。

総括

サイコ~~~~~~!!!
あとヒップホップのライブってあんなに腕上げるもんなんですね。終わってから3,4日筋肉痛が続きました。

そしてこの文章を書いているのは5/13なのですが、ライブ中に披露された新曲2way nice guyは6/1に配信されるそうです!!!やった~~~~~~

*1:Nona ReevesにとってのMichael Jacksonが概ねCreepy NutsにとってのRHYMESTERに相当します。

Kaneko-Zagier 予想の概観

\newcommand{\AA}{\mathcal{A}} \newcommand{\bk}{\boldsymbol{k}} \newcommand{\hof}{\mathfrak{H}} \newcommand{\QQ}{\mathbb{Q}} \newcommand{\pp}{\boldsymbol{p}} \newcommand{\SS}{\mathcal{S}} \newcommand{\hA}{\widehat{\AA}} \newcommand{\hS}{\widehat{\SS}} \newcommand{\sh}{\mathbin{\text{ш}}} \newcommand{\FF}{\mathcal{F}} \newcommand{\hF}{\widehat{\FF}}
この記事はこの曲を聴きながら読むのがオススメです:
Jermy Budd - All that I needed (was you)




本記事は Zeta Advent Calendar 2020 - Adventar の4日目の記事です。

Introduction

Kaneko-Zagier 予想という未解決問題があります。私が最近もっとも心奪われている予想です。こんなに美しい予想があってよいものだろうかと思っています。本記事は、具体的な~~の定理を示す、というようなものではありませんが、その主張と精密化について簡単に解説することを目標とします。全体を通して、概ね小野先生/関先生の報告記事 [On], [S1] に基づきます。

Finite multiple zeta values

先日の記事
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でも有限多重ゼータ値を導入しましたが、改めて定義を記述します。正の整数の組 (k_1,\ldots,k_r) をしばしばインデックスと呼びます。
次で定まる環を考えましょう:

\begin{align} \AA={\left(\prod_p \mathbb{Z}/p\mathbb{Z}\right)}\Biggm/ {\left(\bigoplus_p \mathbb{Z}/p\mathbb{Z}\right)}\end{align}

これを \mathrm{mod}~\pp 整数環と呼ぶことにします (名前の意味は後述)。この環の元は \mathbb{Z}/p\mathbb{Z} の元 a_p素数を渡る列 (a_p)_p として表され、 (a_p)_p=(b_p)_p であることは直和の定義より "有限個の素数 p を除いて" a_p=b_p が成り立つことと同値です。
また、任意の有理数 a=r/s に対し、素数 ps を割り切らないならば (つまり "s を割り切るような有限個の素数 p を除いて") a_p=(r/s~\mathrm{mod}~p) という元を定めることができるので、\AA\QQ を埋め込むことができて、ゆえに \QQ 代数としての構造が入ります。

さて、素数 p とインデックス \bk=(k_1,\ldots,k_r) に対し、有限和

\begin{align} \zeta_{< p}(\bk)=\sum_{0 < n_1 < \cdots < n_r < p}\frac{1}{n_1^{k_1}\cdots n_r^{k_r}}\end{align}

を考えます。いろいろな呼び方がありますが、本ブログでは 打ち止め多重調和和 truncated multiple harmonic sum と呼ぶことにします。ここから定まる \AA の元

\begin{align} \zeta_{\AA}(\bk)=(\zeta_{< p}(\bk)~\mathrm{mod}~p)_p\end{align}

有限多重ゼータ値 finite multiple zeta value と呼びます。

Symmetric multiple zeta values

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に基づいて、(調和/シャッフル)正規化多項式の定義を思い出しましょう。また、インデックス \bk=(k_1,\ldots,k_r) に対し \overleftarrow{\bk}=(k_r,\ldots,k_1) とおき、0\le i\le r に対し

\begin{align}\bk_{[i]}=(k_1,\ldots,k_i),\qquad \bk^{[i]}=(k_{i+1},\ldots,k_r)\end{align}

とおきます。\overleftarrow{\varnothing}=\varnothing, \bk_{[0]}=\bk^{[r]}=\varnothing と理解しています。また、インデックスの成分の和を \mathrm{wt}(\bk) と書きます。(この記述も上記記事と同一です。) このとき \bullet\in\{\ast,\sh\} に対し

\begin{align}\zeta^{\bullet}_{\SS}(\bk)=\sum_{i=0}^r (-1)^{\mathrm{wt}(\bk^{[i]})}\zeta^{\bullet}(\bk_{[i]};0)\zeta^{\bullet}(\overleftarrow{\bk^{[i]}};0)\end{align}

という値が定まります。正規化多項式は一般に \mathcal{Z}-係数の多項式であり、調和/シャッフル関係式によって積を線型和に分解できることからこれは \mathcal{Z} の元となります。\mathcal{Z}1 とすべての多重ゼータ値が \QQ 上張る空間です。

さて、これでは対称多重ゼータ値は積の選び方によって二通りの異なる定義ができてしまうわけですが、なんと次の定理が成り立ちます。

定理 1.
任意のインデックス \bk に対し

\begin{align}\zeta^{\ast}_{\SS}(\bk)-\zeta^{\sh}_{\SS}(\bk)\in\zeta(2)\mathcal{Z}\end{align}

が成り立つ。

この事実より、商代数 \mathcal{Z}/\zeta(2)\mathcal{Z} において考えればどちらを用いても値が変わらないことがわかるので、その一致する値を \zeta_{\SS}(\bk) と書き 対称多重ゼータ値 symmetric multiple zeta value と呼びます。

Kaneko-Zagier conjecture

空間 \mathcal{Z} と同様に、すべての有限多重ゼータ値と 1\QQ 上生成する \AA の部分集合を \mathcal{Z}_{\AA} と書きます。このとき、Kaneko-Zagier 予想とは次の問題を指します。

予想 2 (Kaneko-Zagier 予想).
対応 \zeta_{\AA}(\bk)\mapsto\zeta_{\SS}(\bk) は well-defined な \QQ-代数の同型 \mathcal{Z}_{\AA}\to\mathcal{Z}/\zeta(2)\mathcal{Z} を与える。

この予想が正しければ、有限多重ゼータ値と対称多重ゼータ値は全く同じ関係式を満たす ことになります。まったく異なる定義に思えた二つの多重ゼータ値の変種がこうもきれいに結びつくとは予想もできませんが、それを予想してしまったのが Kaneko-Zagier の両名だというわけです。

実際に正しそうだ、といえる根拠はたくさん見つかっています。多重ゼータ値の関係式族というのは膨大にありますが、その中で (重複するものもありますが)

  • 和公式 (Saito-Wakabayashi [SW] for \AA, Murahara [M1] for \SS.)
  • 双対性 (Hoffman [Ho] for \AA, Hirose [Hi], Jarossay [J1] for \SS.)
  • 巡回和公式 (Kawasaki-Oyama [KO] for \AA, Hirose-Murahara-Ono [HiMOn] for \SS. Hirose-Sato の未出版の結果で \SS での別証明)
  • Ohno 関係式 (Oyama [Oy], Hirose-Imatomi-Murahara-Saito [HIMS]. Seki-Yamamoto [SY] で \AA の結果を精密化)
  • 導分関係式 (Murahara [M2], Horikawa-Murahara-Oyama [HoMOy]. Hirose-Sato の未出版の結果で \SS での別証明)
  • 調和関係式 (Hoffman [Ho1] for \AA, Hirose [Hi], Jarossay [J1], [J2], Ono-Seki-Yamamoto [OSY] for \SS.)
  • シャッフル関係式 (Kaneko-Zagier [KZ] for \AA, Hirose [Hi], Jarossay [J1], [J2], Ono-Seki-Yamamoto [OSY] for \SS.)
  • 二重 Ohno 関係式 (Hirose-Murahara-Onozuka-Sato [HMOS].)

に関しては、\AA および \SS での類似が知られています。それらの証明はまったく異なる方法でなされているケースもありますが、最近の進展では Bachmann-Takeyama-Tasaka [BTT] が q-有限多重調和和 の特殊値を用いることで有限多重ゼータ値と対称多重ゼータ値の双対性を 同時に 導くことに成功しており、Kaneko-Zagier 予想への確かな進歩を感じることができます。

Refinement of KZ-conjecture

本節では、有限/対称多重ゼータ値の一般化を述べ、Kaneko-Zagier 予想のさらなる精密化について紹介します。

正整数 n に対し

\begin{align} \AA_n={\left(\prod_p \mathbb{Z}/p^n\mathbb{Z}\right)}\Biggm/ {\left(\bigoplus_p \mathbb{Z}/p^n\mathbb{Z}\right)}\end{align}

という環を考えます。もちろん \AA_1=\AA です。正整数 m,n をとり、m のほうが小さいとき、\mathbb{Z}/p^n\mathbb{Z} の元を \mathrm{mod}~p^m することによって自然に準同型 \AA_n\to\AA_m を定めることができます。すると射影系 \{\AA_n\}_n が定まるので、その射影極限

\begin{align}\hA=\varprojlim_n \AA_n\end{align}

を考えることができます。自然な全射 \pi\colon\prod_p \mathbb{Z}_p\to\hA があるので、これによって (有限個を除いた) 素数 p に対し p 進整数 a_p が与えられているとき \hA の元 \pi((a_p)_p) を考えることができます。これを今後 a_{\pp} と書きます。とくに \pp=\pi((p)_p)無限大素数 infinitely large prime と呼びます。各 \AA_n に離散位相を入れると \hA には極限位相が入りますが、これは \pp 進位相と一致して、完備な位相環となります。これは自然な射影 \pi_n\colon\hA\to\AA_n の核を見ることでわかりますが、詳細は Seki [S2, Lemma 2.5] をご覧ください。

以上の準備の下で、インデックス \bk に対し \hA の元

\begin{align}\zeta_{\hA}(\bk)=\zeta_{<\pp}(\bk)\end{align}

\pp 進有限多重ゼータ値 \pp-adic finite multiple zeta value と呼びます。

\pp 進有限多重ゼータ値は、例えば Wolstenholme の定理 \zeta_{\AA_2}(1)=0 のような、素数冪での剰余の公式 (supercongruence というようです) を多重ゼータ値の言葉で取り扱うために Rosen [R] で導入されました。では、Kaneko-Zagier 予想の哲学に則って、\pp 進有限多重ゼータ値に対応する対称多重ゼータ値の一般化はどうなっているのか、という疑問が自然に浮かびます。[HiMOn] によれば Jarossay [J2] で、[OSY] によれば Hirose-Seki の personal communication で定義されたようですが、対応物は t 進対称多重ゼータ値 t-adic symmetric multiple zeta value と呼ばれるもののようです。

さて定義ですが、インデックス \bk=(k_1,\ldots,k_r)\bullet\in\{\ast,\sh\} に対し \mathcal{Z} [ [ t ] ] の元

\begin{align}\zeta^{\sigma,\bullet}(\bk)=\sum_{e_1,\ldots,e_r\ge 0} {\left(\prod_{i=1}^r \binom{k_i+e_i-1}{e_i}\right)}\zeta^{\bullet}(k_1+e_1,\ldots,k_r+e_r;0)t^{e_1+\cdots+e_r}\end{align}

を考えます。これを用いて

\begin{align}\zeta^{\bullet}_{\hS}(\bk)=\sum_{i=0}^r (-1)^{\mathrm{wt}(\bk^{[i]})}\zeta^{\bullet}(\bk_{[i]};0)\zeta^{\sigma,\bullet}(\overleftarrow{\bk^{[i]}};0)\end{align}

とおくと、定理 1 の拡張として次の事実が成り立ちます。

定理 3.
任意のインデックス \bk に対し

\begin{align}\zeta^{\ast}_{\hS}(\bk)-\zeta^{\sh}_{\hS}(\bk)\in\zeta(2)\mathcal{Z}[ [t] ]\end{align}

が成り立つ。

これに基づいて、商代数 (\mathcal{Z}/\zeta(2)\mathcal{Z})[[t]] の元としてこれらを t 進対称多重ゼータ値と呼び \zeta_{\hS}(\bk) と書きます。

ここまでで「\pp 進有限 / t 進対称」多重ゼータ値を定義してきました。いよいよ予想を述べる時間です。Kaneko-Zagier 予想で考えた \mathcal{Z}_{\AA} の対応物として

\begin{align}\mathcal{Z}_{\hA}=\left\{\sum_{n=1}^{\infty} a_n\zeta_{\hA}(\bk_n)\pp^{b_n}\in\hA~\middle|~a_n\in\QQ,~\bk_n:\text{index},~b_n\in\mathbb{Z}_{\ge 0}~\text{s.t.}~\lim_{n\to\infty} b_n=\infty\right\}\end{align}

を考えます。ここで a_n有理数列、\bk_n はインデックス、b_nn\to\infty で正の無限大に発散するような非負整数列全体を渡ります。

これで準備が整いました。

予想 4.
対応 \zeta_{\hA}(\bk)\mapsto\zeta_{\hS}(\bk) は well-defined な位相環の同型 \phi\colon\mathcal{Z}_{\hA}\to(\mathcal{Z}/\zeta(2)\mathcal{Z})[[t]] を与える。



References

[BTT] H. Bachmann, Y. Takeyama and K. Tasaka, Cyclotomic analogues of finite multiple zeta values, Compos. Math. 154 (2018), 2701-2721.
[Hi] M. Hirose, Double shuffle relations for refined symmetric multiple zeta values, Doc. Math. 25 (2020), 365-380.
[Ho1] M. E. Hoffman, The algebra of multiple harmonic series, J. Algebra 194 (1997), 477-495.
[Ho2] M. E. Hoffman, Quasi-symmetric functions and mod p multiple harmonic sums, Kyushu J. Math. 69 (2015), 345–366.
[HIMS] M. Hirose, K. Imatomi, H. Murahara, and S. Saito, Ohno-type relations for classical and finite multiple zeta-star values, arXiv:1806.09299.
[HiMon] M. Hirose, H. Murahara and M. Ono, On variants of symmetric multiple zeta-star values and the cyclic sum formula, arXiv:2001.03832.
[HoMOy] Y. Horikawa, H. Murahara and K. Oyama, A note on derivation relations for multiple zeta values and finite multiple zeta values, arXiv:1809.08389.
[HMOS] M. Hirose, H. Murahara, T. Onozuka, and N. Sato, Linear relations of Ohno sums of multiple zeta values, Indag. Math. (N. S.) 31 (2020), 556-567.
[J1] D. Jarossay, Double mélange des multizêtas finis et multizêtas symétrisés, C. R. Math. Acad. Sci. Paris, Ser I 352 (2014), 767–771.
[J2] D. Jarossay, Adjoint cyclotomic multiple zeta values and cyclotomic multiple harmonic values, arXiv:1412.5099v5.
[KO] N. Kawasaki and K. Oyama, Cyclic sum of finite multiple zeta values, Acta Arith. 195 (2020), 281–288.
[KZ] M. Kaneko and D. Zagier, Finite multiple zeta values, in preparation.
[M1] H. Murahara, A note on finite real multiple zeta values, Kyushu J. Math. 70 (2016), 197-204.
[M2] H. Murahara, Derivation relations for finite multiple zeta values, Int. J. Number Theory 13 (2017), 419-427.
[On] 小野雅隆, 「多重ゼータ値」から「有限多重ゼータ値」へ, 第 26 回整数論サマースクール報告集, 2018.
[Oy] K. Oyama, Ohno-type relation for finite multiple zeta values, Kyushu J. Math. 72 (2018), 277-285.
[OSY] M. Ono, S. Seki and S. Yamamoto, Truncated $t$-adic symmetric multiple zeta values and double shuffle relations, arXiv:2009.04112.
[R] J. Rosen, Asymptotic relations for truncated multiple zeta values, J. London Math. Soc. (2) 91 (2015), 554-572.
[S1] 関真一朗, \mathcal{F}-有限多重ゼータ値」から「\widehat{\mathcal{F}}-有限多重ゼータ値」へ: ただし, \mathcal{F} = \AA or \SS, 第 26 回整数論サマースクール報告集, 2018.
[S] S. Seki, The p-adic duality for the finite star-multiple polylogarithms, Tohoku Math. J. (2) 71 (2019), 111-122.
[SW] S. Saito and N. Wakabayashi, Sum formula for finite multiple zeta values, J. Math. Soc. Japan 67 (2015), 1069-1076.
[SY] S. Seki and S. Yamamoto, Ohno-type identities for multiple harmonic sums, J. Math. Soc. Japan 72 (2020), 673-686.

正規化定理とその一般化

\newcommand{\bk}{\boldsymbol{k}} \newcommand{\hof}{\mathfrak{H}} \newcommand{\QQ}{\mathbb{Q}} \newcommand{\sh}{\mathbin{\text{ш}}} \newcommand{\ep}{\varepsilon} \newcommand{\Li}{\mathrm{Li}} \newcommand{\reg}{\mathrm{reg}}
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西寺郷太 - Bodymoves!

西寺郷太(NONA REEVES)「BODYMOVES!」




本記事は Zeta Advent Calendar 2020 - Adventar の3日目の記事です。

Introduction

正整数の組 (k_1,\ldots,k_r) をインデックスと呼び、k_r\ge 2 であるときインデックスは 許容的 admissible であると呼ばれます。許容的なインデックス \bk=(k_1,\ldots,k_r) に対し多重ゼータ値は級数

\begin{align} \zeta(\bk)=\sum_{0 < n_1 < \cdots < n_r} \frac{1}{n_1^{k_1}\cdots n_r^{k_r}} \end{align}

で定義されます。この "許容的" という条件は級数の収束のために保証されているべきで、したがって 1 で終わるインデックスに対しては多重ゼータ値が定義できません。この問題を乗り越えたひとつの結果として、Ihara-Kaneko-Zagier [IKZ] による 正規化 regularization という手続きがあります。多重ゼータ値には 調和積 harmonic productシャッフル積 shuffle product という二つの積構造が隠れており、それらに基づいてそれぞれ 調和正規化 harmonic reguralizationシャッフル正規化 shuffle regularization が定まります。この二つの正規化を繋ぐ重要な結果として 正規化定理 regularization theorem があり、今までに様々な一般化がなされています。本記事では、証明を細かく述べることはしませんが、正規化定理の基本的な主張とその一般化を二つ紹介します。

Regularized polynomials

(許容的でなくてもよい) インデックス \bk=(k_1,\ldots,k_r) と正整数 N に対し

\begin{align}\zeta_{< N}(\bk)=\sum_{0 < n_1 < \cdots < n_r < N} \frac{1}{n_1^{k_1}\cdots n_r^{k_r}}\end{align}

とおきます。\bk が許容的であれば \lim_{N\to\infty} \zeta_{< N}(\bk)=\zeta(\bk) となることが容易にわかります。また、Euler 定数を極限

\begin{align} \gamma=\lim_{N\to\infty}\left(\zeta_{< N}(1)-\log N\right)\end{align}

で定めます。このとき、次が成り立ちます。

命題 1.
任意のインデックス \bk に対しある多項式 \zeta^{\ast}(\bk;T) と実数 \ep が存在し、N\to\infty で漸近展開

\begin{align} \zeta_{< N}(\bk)=\zeta^{\ast}(\bk;\log N+\gamma)+O{\left(\frac{\log^{\ep}N}{N}\right)}\end{align}

が成り立つ。

また、許容的でないインデックスに近づくもう一つの方法として、冪級数

\begin{align}\Li_{\bk}(z)=\sum_{0 < n_1 < \cdots < n_r < N} \frac{z^{n_r}}{n_1^{k_1}\cdots n_r^{k_r}}\end{align}

を考える、という方法があります。この場合も上と同様の事実が成り立ちます。

命題 2.
任意のインデックス \bk に対しある多項式 \zeta^{\sh}(\bk;T) と実数 \ep が存在し、z\uparrow 0 で漸近展開

\begin{align} \zeta_{< N}(\bk)=\zeta^{\sh}(\bk;-\log(1-z))+O( (1-z)\log^{\ep}(1-z) )\end{align}

が成り立つ。

多項式 \zeta^{\ast}(\bk;T), \zeta^{\sh}(\bk;T) はそれぞれ 調和正規化多項式 harmonic regularized polynomial, シャッフル正規化多項式 shuffle regurlarzed polynomial と呼ばれます。すべての多重ゼータ値 (\zeta(\varnothing)=1 を含む) が \QQ 上張るベクトル空間 (これには調和積/シャッフル積で自然に \QQ-代数としての構造が入ります) を \mathcal{Z} と書けば、これらはともに \mathcal{Z}[T] の元となります。

Statement of the regularization theorem

形式的冪級数

\begin{align}A(W)=\exp{\left(\sum_{n=2}^{\infty} \frac{\zeta(n)}{n}(-W)^n\right)}\end{align}

を考えます。このとき \mathbb{R}[T][[W]] での等式 \rho(\exp(TW))=A(W)\exp(TW) によって \mathbb{R}[T] 上の \mathbb{R}-線型写像 \rho が一意に定まります。ここで左辺は係数ごとに作用していると思っています: つまり右辺の W^n の係数を \rho(T^n/n!) とおいて \mathbb{R} 線型に拡張しています。このとき、正規化定理とは次の主張をいいます:

定理 3 (正規化定理).
任意のインデックス \bk に対し

\begin{align} \zeta^{\sh}(\bk;T)=\rho(\zeta^{\ast}(\bk;T))\end{align}

が成り立つ。

Hoffman algebra

\hof=\QQ\langle x,y\rangle とおき、その部分代数 \hof^1=\QQ+y\hof\hof^0=\QQ+y\hof x を考えることにします。このとき積構造として調和積、シャッフル積を考えることができます。調和積については

o-v-e-r-h-e-a-t.hatenablog.com

で定義しているのでご参照下さい。シャッフル積は帰納的規則

\begin{align} &1\sh w=w\sh 1=w,\\uw\sh u'w'&=u(w\sh u'w')+u'(uw\sh w')\end{align}

で定まる \hof 上の \QQ-双線型な積です。ここで w,w'\in\hof であり、u,u'x,y のいずれかとしています。また、i\in\{0,1\}\bullet\in\{\ast,\sh\} に対し、積構造として \bullet を備えた代数 \hof^i\hof^i_{\bullet} と書くことにします。このとき次の事実が知られています:

命題 4 (Hoffman [H] for \bullet=\ast, Reutenauer [R] for \bullet=\sh).
\bullet\in\{\ast,\sh\} に対し同型 \hof^1_{\bullet}\simeq\hof^0_{\bullet}[y] が成り立つ。

すべてのインデックスの形式的 \QQ-線型和がなす空間を

\begin{align}\mathcal{I}=\bigoplus_{r\ge 0}\QQ [\mathbb{Z}^r_{\ge 1}]\end{align}

と書きます。インデックスに対し多重ゼータ値を割り当てる写像 \zeta\QQ-線型に \mathcal{I} へ拡張できます。このとき対応 \varnothing\mapsto 1, (k_1,\ldots,k_r)\mapsto yx^{k_1-1}\cdots yx^{k_r-1} によって全単射 I\colon\mathcal{I}\to\hof^1 が構成できます。命題 4 によって w\in\hof^0_{\bullet} に対し Z^{\bullet}(w)=\zeta(I^{-1}(w)) とおき、Z^{\bullet}(y)=T とすることで準同型 Z^{\bullet}\colon\hof^1_{\bullet}\to\mathcal{Z}[T] が構成できますが、これを使うと正規化多項式を次のように特徴づけることができます。

命題 5.
\bullet\in\{\ast,\sh\} とインデックス \bk に対し \zeta^{\bullet}(\bk;T)=Z^{\bullet}(I(\bk)) が成り立つ。

今回の趣旨と (深く関連するものの) すこし離れますが、多重ゼータ値には次のような結果が知られています。

定理 6 (複シャッフル関係式).
任意の w,w'\in\hof^0 に対し \zeta(I^{-1}(w\ast w'))=\zeta(I^{-1}(w\sh w')) が成り立つ。

正規化定理と複シャッフル関係式を合わせて 正規化複シャッフル関係式 regularized double shuffle relation と呼びますが、この関係式族は非常に広く、多重ゼータ値間に成り立つすべての \QQ-線型関係式を導出するのではないかと予想されています。

Polynomial generalization

本節では Hirose-Murahara-Saito [HMS] による polynomial multiple zeta values (多項式多重ゼータ値、とでも訳すべきでしょうか) における正規化定理の一般化について、その主張を述べます。

インデックス \bk=(k_1,\ldots,k_r) に対し \overleftarrow{\bk}=(k_r,\ldots,k_1) とおき、0\le i\le r に対し

\begin{align}\bk_{[i]}=(k_1,\ldots,k_i),\qquad \bk^{[i]}=(k_{i+1},\ldots,k_r)\end{align}

とおきます。\overleftarrow{\varnothing}=\varnothing, \bk_{[0]}=\bk^{[r]}=\varnothing と理解しています。また、インデックスの成分の和を \mathrm{wt}(\bk) と書きます。このとき、polynomial multiple zeta value\mathcal{Z}[x,y] の元として

\begin{align}\zeta^{\bullet}_{x,y}(\bk;T)=\sum_{i=0}^r \zeta^{\bullet}(\bk_{[i]};T)\zeta^{\bullet}(\overleftarrow{\bk^{[i]}};T)x^{\mathrm{wt}(\bk_{[i]})}y^{\mathrm{wt}(\bk^{[i]})}\end{align}

で定まります。定義より \zeta_{1,0}(\bk;T)=\zeta^{\bullet}(\bk;T) となり、また \zeta_{1,-1}(\bk;T)T に依存しないことが知られていて、対称多重ゼータ値 symmetric multiple zeta values と呼ばれる文脈で重要な役割を果たしています (これについてはいずれ記事を書きます)。

さて、一般化された正規化定理の主張を述べましょう。従来の A(W) にあたるものとして、\mathcal{Z}(x,y)[[W]] の元

\begin{align}A_{x,y}(W)=\exp {\left(\sum_{n=2}^{\infty} \frac{\zeta(n)}{n}\frac{x^n+y^n}{(x+y)^n}(-W)^n\right)}\end{align}

を考えます。これによって、\mathbb{R}(x,y)[T] 上の \mathbb{R}(x,y)-線型写像 \rho_{x,y}\rho_{x,y}(\exp{TW})=A_{x,y}(W)\exp(TW) で定める (先ほどと同様に左辺は係数ごとに定義しています) と、次の定理が成り立ちます。

定理 7 (Hirose-Murahara-Saito [HMS]).
任意のインデックス \bk に対し

\begin{align} \zeta^{\sh}_{x,y}(\bk;T)=\rho_{x,y}(\zeta^{\ast}_{x,y}(\bk;T))\end{align}

が成り立つ。

Hurwitz-type generalization

[HMS] とは別方向の一般化として、[KXY] における Hurwitz 型多重ゼータ値への拡張があります。以下では t を常に |t| < 1 なる実数とします。インデックス \bk=(k_1,\ldots,k_r) と正整数 N に対し

\begin{align}\zeta^t_{< N}(\bk)=\sum_{0 < n_1 < \cdots < n_r < N} \frac{1}{(n_1+t)^{k_1}\cdots (n_r+t)^{k_r}}\end{align}

とおきます。また、ガンマ関数を積分

\begin{align}\Gamma(t)=\int_0^{\infty} e^{-u}u^{t-1}\,du\end{align}

で定め、ディガンマ関数をその対数微分とします。このとき、次が成り立ちます。

命題 8.
任意のインデックス \bk に対しある多項式 \zeta^{\ast}_t(\bk;T) と実数 \ep が存在し、N\to\infty で漸近展開

\begin{align} \zeta^t_{< N}(\bk)=\zeta^{\ast}_t(\bk;\log N-\log(1+t))+O{\left(\frac{\log^{\ep}N}{N}\right)}\end{align}

が成り立つ。

簡単な事実 \psi(1)=-\gamma より、t\to 0 を考えることでこれは命題 1 を含んでいることがわかります。

関数 \Li_{\bk}(z) を考えたのと同様に、

\begin{align}\Li^t_{\bk}(z)=\sum_{0 < n_1 < \cdots < n_r < N} \frac{z^{n_r+t}}{(n_1+t)^{k_1}\cdots (n_r+t)^{k_r}}\end{align}

と定義します。対応する命題は以下のようになります:

命題 9.
任意のインデックス \bk に対しある多項式 \zeta^{\sh}_t(\bk;T) と実数 \ep が存在し、z\uparrow 0 で漸近展開

\begin{align} \zeta^t_{< N}(\bk)=\zeta^{\sh}_t(\bk;-\log(1-z))+O( (1-z)\log^{\ep}(1-z) )\end{align}

が成り立つ。

命題 1,2 のときと同様に命題 8,9 によって正規化多項式 (の変種) \zeta^{\bullet}_t(\bk;T) (\bullet\in\{\ast,\sh\}) が定義されたわけですが、なんと正規化定理はそのまま成り立ちます。

定理 10 (Kaneko-Xu-Yamamoto [KXY]).
任意のインデックス \bk に対し

\begin{align} \zeta^{\sh}_t(\bk;T)=\rho(\zeta^{\ast}_t(\bk;T-\gamma-\psi(1+t)))\end{align}

が成り立つ。

References

[IKZ] K. Ihara, M. Kaneko and D. Zagier, Derivation and double shuffle relations for multiple zeta values, Compos. Math. 142 (2006), 307-338.
[H] M. E. Hoffman, The algebra of multiple harmonic series, J. Algebra 194 (1997), 477-495.
[HMS] M. Hirose, H. Murahara and S. Saito, Polynomial generalization of the regularization theorem for multiple zeta values, arXiv:1808.06745.
[KXY] M. Kaneko, C. Xu and S. Yamamoto, A generalized regularization theorem and Kawashima's relation for multiple zeta values, arXiv:2011.14338.
[R] C. Reutenauer, Free Lie Algebras, Oxford Science Publications, Oxford, 1993.

Hoffman 双対性によるA-導分関係式の導出

\newcommand{\AA}{\mathcal{A}}
\newcommand{\hA}{\widehat{\AA}}
\newcommand{\bk}{\boldsymbol{k}}
\newcommand{\hof}{\mathfrak{H}}
\newcommand{\QQ}{\mathbb{Q}}
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Negicco - ときめきのヘッドライナー

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本記事は Zeta Advent Calendar 2020 - Adventar の一日目の記事です。

Introduction

多重ゼータ値についてよく知られている関係式の一つに 導分関係式 derivation relation と呼ばれるものがあります。原論文である Ihara-Kaneko-Zagier [IKZ] では Hoffman 代数の完備化における代数的な計算を駆使して証明しています。一方で、Kaneko-Zagier [KZ] において導入された 有限多重ゼータ値 finite multiple zeta values の世界における導分関係式の類似が Murahara [M] によって証明されています。こちらも帰納法と word の計算に物を言わせたパワフルな証明ですが、本記事では Murahara-Onozuka [MO] に基づいて、Hoffman 双対性 Hoffman duality を用いた鮮やかな別証明を紹介します。

Remark. Horikawa-Murahara-Oyama [HMO] の Section 5 に本記事と本質的に同一の証明が記載されていました。情報提供をしていただいた同論文著者の小山宏次郎さんに感謝申し上げます。

Algebraic setup

本節では有限多重ゼータ値の定義と代数的定式化を復習します。商環
\displaystyle \AA={\left(\prod_p \mathbb{Z}/p\mathbb{Z}\right)}\Biggm/ {\left(\bigoplus_p \mathbb{Z}/p\mathbb{Z}\right)}
を考えると、対角的に有理数が埋め込めることからこれは \QQ-代数となります。正の整数の組 (k_1,\ldots,k_r) はしばしばインデックスと呼ばれますが、これに対して \AA の元
\displaystyle \zeta_{\AA}(k_1,\ldots,k_r)=\left(\sum_{0 < n_1 < \cdots < n_r < p}\frac{1}{n_1^{k_1}\cdots n_r^{k_r}}~\mathrm{mod}~p\right)_p
を有限多重ゼータ値と呼びます。

\hof=\QQ\langle x,y\rangle とおき、\hof^1=\QQ+y\hof をその部分代数とします。このとき \QQ-線型写像 Z_{\AA}\colon\hof^1\to\AAZ_{\AA}(1)=1Z_{\AA}(yx^{k_1-1}\cdots yx^{k_r-1})=\zeta_{\AA}(k_1,\ldots,k_r) (ここで (k_1,\ldots,k_r) は任意のインデックス) によって定まります。ところで \hof 上の導分とは \QQ-線型な準同型 d\colon \hof\to \hof であって Leibniz rule d(AB)=d(A)B+Ad(B) (A,B\in \hof) を満たすものですが、今回は正の整数 n に対して定まる \hof 上の導分として \partial_n(x)=-\partial_n(y)=y(y+x)^{n-1}x から決まるものを用いることとします。このとき、有限多重ゼータ値の導分関係式とは次の定理のことです。

定理 (有限多重ゼータ値の導分関係式; Murahara [M]).
任意の正整数 nw\in\hof^1 に対し Z_{\AA}(\partial_n(wx)x^{-1})=0 が成り立つ。

また、後のために Hoffman 代数上の 調和積 harmonic product を導入します。以後正整数 k に対し z=yx^{k-1} と書くことにします。\hof^1 上の双線型な積 \ast は規則  1\ast w=w\ast 1=wwz_k\ast w'z_l=(w\ast w'z_l)z_k+(wz_k\ast w')z_l+(w\ast w')z_{k+l}帰納的に定まります。ここで w,w'\in\hof^1 であり、k,l は正整数です。

Proof of the main theorem

\hof[t] 上の線型写像 \widetilde{S}_t\widetilde{S}_t(x)=x, \widetilde{S}_t(y)=y+tx で定め、これを使って \QQ[t]+y\hof[t] 上の線型写像 S_tS_t(1)=1S_t(w)=y\widetilde{S}_t(y^{-1}w) で定めます。また、\hof 上の準同型 \phi\phi(1)=1, \phi(x)=x+y\phi(y)=-y で与えられるものとし、\phi^t=S_{-t}\circ\phi\circ S_t とおきます。このとき次が成り立ちます:

補題 1 (有限多重ゼータ値の双対性; Hoffman [H]).
任意の w\in\hof^1 に対し Z^{\star}_{\AA}(w)=Z^{\star}_{\AA}(\phi^1(w)) が成り立つ。ここで Z^{\star}_{\AA}=Z_{\AA}\circ S_1 とおいた。
補題 2 (調和関係式).
任意の w,w'\in\hof^1 に対し Z_{\AA}(w\ast w')=Z_{\AA}(w)Z_{\AA}(w') が成り立つ。
補題 3 (depth 1 明示公式).
任意の正整数 k に対し \zeta_{\AA}(k)=0 が成り立つ。


任意の a,b に対し S_{a+b}=S_a\circ S_b であることより S_{-1}S_1 の逆写像であることがわかります。この事実と S_1(\hof^1)=\hof^1 より、補題 1 は任意の w\in\hof^1 に対し Z_{\AA}(w)=Z_{\AA}(\phi(w)) が成り立つことと同値です。この等式において w\partial_n(wx)x^{-1} に置き換えることで、示すべき式は Z_{\AA}(\phi(\partial_n(wx)x^{-1}))=0 となりました。

また、正整数 n に対し \hof 上の新しい導分を \delta_n(x)=0\delta_n(y)=z_n(y+x) で定めると、調和積の定義より \delta_n(w(y+x))(y+x)^{-1}=w\ast z_n が成り立つことがわかります。なお、記号的に便利なので形式的に inverse を書いていますが、商体に拡張した議論をする必要はなく、\delta_n(w(y+x)) は定義より必ず \hof(y+x) の元になります (導分関係式の主張も同様)。

\phi が自己同型かつ \delta_n が導分であることから \phi\circ\delta_n\circ\phi もまた導分で、生成元の移り方がそれぞれ x\mapsto y+x\mapsto z_n(y+x)\mapsto -y(y+x)^{n-1}x, y\mapsto -y\mapsto -z_n(y+x)\mapsto y(y+x)^{n-1}x となることより \phi\circ\delta_n\circ\phi=-\partial_n\hof 上で成り立ちます。このことと \phi^2=\mathrm{id} であること (演習問題) から w\in\hof^1 に対し \phi(\partial_n(wx)x^{-1})=-\delta_n(\phi(wx))(y+x)^{-1}=-\delta_n(\phi(w)(y+x))(y+x)^{-1}=-\phi(w)\ast z_n となり、両辺の Z_{\AA} での像を見ることで Z_{\AA}(\phi(\partial_n(wx)x^{-1}))=-Z_{\AA}(\phi(w))Z_{\AA}(z_n)補題 3 より 0 となることが従います。これで定理が証明されました。

References

[IKZ] K. Ihara, M. Kaneko and D. Zagier, Derivation and double shuffle relations for multiple zeta values, Compos. Math. 142 (2006), 307-338.
[H] M. E. Hoffman, Quasi-symmetric functions and mod p multiple harmonic sums, Kyushu J. Math. 69 (2015), 345–366.
[HMO] Y. Horikawa, H. Murahara and K. Oyama, A note on derivation relations for multiple zeta values and finite multiple zeta values, arXiv:1809.08389.
[KZ] M. Kaneko and D. Zagier, Finite multiple zeta values, in preparation.
[M] H. Murahara, Derivation relations for finite multiple zeta values, Int. J. Number Theory 13 (2017), 419-427.
[MO] H. Murahara and T. Onozuka, Derivation relation for finite multiple zeta values in \hA, arXiv:1809.02572v3.

Announcement

明日の記事は tsujimotter さんが "局所ゼータ関数について書こうと思" った記事
tsujimotter.hatenablog.com
です。

二重大野関係式: その後の発展

この記事はこの曲を聴きながら読むのがオススメです:
Prince - She's Always In My Hair

Prince - She's Always In My Hair (Live At Paisley Park, 1999)




昨年 10 月に arXiv にアップロードされた論文

arxiv.org

において、二重大野関係式 という定理が証明されました。詳細は後述しますが、二重大野関係式とは、多重ゼータ値について成り立つ定理「大野関係式」の非常に面白い応用です。


私はこれを知って衝撃を受け、論文を読み、主定理の証明を解説したブログ記事

o-v-e-r-h-e-a-t.hatenablog.com

を作成しました。




また、一方で、私が以前から愛してやまない概念である「コネクター」について、自分なりの理解を述べたブログ記事

o-v-e-r-h-e-a-t.hatenablog.com

を先日投稿しました。コネクターという新たな道具を使うことで、元来非自明だった大野関係式の証明を非常に短く済ませられることを解説しています。







そして2020年6月16日。



二重大野関係式がコネクターによって再証明されました!!!!!



該当する論文は

arxiv.org

です。これは二重大野関係式の原論文の著者である広瀬稔さん、佐藤信夫さんおよび、コネクターの原論文の著者である関真一朗さんによる三人の共著論文となっています。
これについて、第三著者・関さんによるブログ記事

integers.hatenablog.com

がありますので、この論文の完成経緯やモチベーションについては上記記事をご参照ください。




さて、本記事では、実際に Hirose-Sato-Seki のコネクターによる新証明を理解することを目標とします。言葉遣いは例によって一応復習しますが、簡潔に済ませるので、詳細は上に引用した私の二記事か

integers.hatenablog.com

をご参照ください。

続きを読む

What is connector?

この記事はこの曲を聴きながら読むのがオススメです:
Prince & 3rdEyeGirl - FIXURLIFEUP

Prince & 3RDEYEGIRL Fixurlifeup hd720



2018 年 6 月 12 日、arXiv に論文

arxiv.org

が投稿されました。本記事は、この論文で導入された素晴らしい概念「ネクター」について解説を試みたものです。実はこの論文の著者・関真一朗さんによるこれまた素晴らしいブログ記事

integers.hatenablog.com

において解説がなされているのですが、自分の理解を深めることと、今後の準備のため、自力で解説を書いてみることにしました。殆どが上記記事の焼き直しになってしまうかと思いますが、どうかご容赦ください。


前提知識とモチベーション

多重ゼータ値について多少の知識がある方はこの節を読み飛ばしても構いません。

正整数 r 個の組 \boldsymbol{k}=(k_1,\ldots,k_r)インデックス と呼びます。最後の成分 k_r1 より大きいとき、許容インデックス と呼びます。インデックス \boldsymbol{k} の成分の個数 r深さ といい、\mathrm{dep}(\boldsymbol{k}) と書きます。また、成分の総和を 重さ といい、\mathrm{wt}(\boldsymbol{k}) と書きます。

深さ 0 のインデックスがただ一つあると考え、\varnothing で書きます (しばしば空インデックスとかいいます)。空インデックスも許容インデックスということにしておきましょう。



許容インデックス \boldsymbol{k}=(k_1,\ldots,k_r) に対し、級数

\begin{align*}
\zeta(\boldsymbol{k})=\sum_{0 < n_1 < \cdots < n_r} n_1^{-k_1}\cdots n_r^{-k_r}
\end{align*}

多重ゼータ値 と呼びます。英称 Multiple zeta value に由来した MZV という略称を使うこともあります。後々のために \zeta(\varnothing)=1 とおいておきましょう。


多重ゼータ値の間に成り立つ様々な関係式が今までの研究で知られています。その概略については九大のレクチャーノートとして出版された荒川先生、金子先生の解説 pdf

http://gcoe-mi.jp/temp/publish/b3ab8d917d96ba8e8fb37328483cbd01.pdf

や2年前の整数論サマースクール報告集の冒頭を飾った金子先生の記事

http://www.ist.aichi-pu.ac.jp/~tasaka/ss2018/1.pdf

を見るとわかりやすいです。また、Wikipedia の記事

ja.wikipedia.org

にも簡単な解説が載せられています。



その中でも 双対性 と呼ばれる一連の関係式族に注目することとしましょう。インデックス \boldsymbol{k}2 以上の成分の個数を 高さ といい \mathrm{ht}(\boldsymbol{k}) と書きます。

許容インデックス \boldsymbol{k} の高さを簡単のため s と書くと、\boldsymbol{k} は正整数 a_1,\ldots,a_s,b_1,\ldots,b_s を用いて

\displaystyle \boldsymbol{k}=\left(\{1\}^{a_1-1},b_1+1,\ldots,\{1\}^{a_s-1},b_s+1\right)

という風に一意に表示できます。ここで \{1\}^n1n 個並べたものです。例えば \boldsymbol{k}=(1,2,4,1,1,3) だと

\displaystyle \boldsymbol{k}=\left(\{1\}^{2-1},1+1,\{1\}^{1-1},3+1,\{1\}^{3-1},2+1\right)

という具合なので、

\begin{align*}a_1&=2,\\b_1&=1,\\a_2&=1,\\b_2&=3,\\a_3&=3,\\b_3&=2\end{align*}

となりますね。


さてこの表示を用いて、新たな許容インデックス

\left(\{1\}^{b_s-1},a_s+1,\ldots,\{1\}^{b_1-1},a_1+1\right)

が定まります。これを \boldsymbol{k}双対インデックス と呼び、\boldsymbol{k}^{\dagger} と書きます。たとえばさっきの例 \boldsymbol{k}=(1,2,4,1,1,3) だと、

\displaystyle \boldsymbol{k}^{\dagger}=\left(\{1\}^{2-1},3+1,\{1\}^{3-1},1+1,\{1\}^{1-1},2+1\right)

なので、(1,2,4,1,1,3)^{\dagger}=(1,4,1,1,2,3) ですね。



Hoffman 代数での定式化も説明しておきましょう。
\mathbb{Q} 係数の二変数非可換多項式環 \mathfrak{H}=\mathbb{Q}\langle x,y \rangle を考えて、この部分代数 \mathfrak{H}^1=\mathbb{Q}+y\mathfrak{H}\mathfrak{H}^0=\mathbb{Q}+y\mathfrak{H}x を定めておきます。インデックス (k_1,\ldots,k_r) が word (単項式) yx^{k_1-1}\cdots yx^{k_r-1} に対応し、空インデックスが空 word 1 に対応すると思うと、任意のインデックスがちょうど \mathfrak{H}^1 の単項式に対応します。許容インデックスは \mathfrak{H}^0 に対応しますね。

さて、\mathfrak{H}^1 上の反自己同型 \tau\tau(x)=y, \tau(y)=x で定めます。補足しておくと、写像 f:R\to RR 上の反自己同型であるとは、任意の X,Y\in R に対し f(XY)=f(Y)f(X) となることです。

この言葉を使うと、許容インデックス \boldsymbol{k} に対応する word を w と書いたとき \tau(w) に対応する許容インデックスが \boldsymbol{k}^{\dagger} であるということができます。

例えばインデックス (1,2,4,1,1,3) は word y^2xyx^3y^3x^2 に対応し、これに対して \tau での移り先を計算すると

\begin{align*}\tau(y^2xyx^3y^3x^2)&=\tau(x)^2\tau(y)^3\tau(x)^3\tau(y)\tau(x)\tau(y)^2\\&=y^2x^3y^3xyx^2\end{align*}

という具合になります。y^2x^3y^3xyx^2 に対応する許容インデックスはきちんと (1,4,1,1,2,3) に対応しますね。



以上の準備の下、次の定理が成立します。


許容インデックス \boldsymbol{k} に対し

\zeta(\boldsymbol{k})=\zeta(\boldsymbol{k}^{\dagger})

が成り立つ。


この定理を 双対性 と呼びます。多重ゼータ値には Kontsevich の発見した 反復積分表示 という事実があり、これを使うと双対性はほとんど自明に証明されてしまう一方、級数表示だけを弄って証明する方法は知られていませんでした。その障壁を取り払うのがコネクターの発想の元です。

ネクターによる双対性の証明

正整数 m,n に対し、双対性の ネクター

\displaystyle C(m,n)=\frac{m!n!}{(m+n)!}

で定めます。これを用いて、二つのインデックス \boldsymbol{k}=(k_1,\ldots,k_r), \boldsymbol{l}=(l_1,\ldots,l_s) に対し、連結和

\displaystyle Z(\boldsymbol{k};\boldsymbol{l})=\sum_{0 = m_0 < m_1 < \cdots < m_r\atop{0 = n_0 < n_1 < \cdots < n_s}} \left(\prod_{i=1}^r m_i^{-k_i}\right)C(m_r,n_s)\left(\prod_{j=1}^s n_j^{-l_j}\right)

で定めます。文字通り、二つの多重ゼータ値 \zeta(\boldsymbol{k}),\zeta(\boldsymbol{l}) をコネクター C(m,n) で繋いだ形の和ですね。


さて、インデックス \boldsymbol{k}=(k_1,\ldots,k_r) に対し

\begin{align*}\displaystyle \boldsymbol{k}_{\rightarrow}&=(k_1,\ldots,k_r,1)\\\boldsymbol{k}_{\uparrow}&=(k_1,\ldots,k_r+1)\end{align*}

とおきます。Hoffman 代数でいうと、\rightarrow は右端に y をつけることに対応し、\uparrow は右端に x をつけることに対応します。


定義より明らかに

\displaystyle Z(\boldsymbol{k}_{\rightarrow};\boldsymbol{l})=\sum_{0 = m_0 < m_1 < \cdots < m_r < m_{r+1}\atop{0 = n_0 < n_1 < \cdots < n_s}} \left(\prod_{i=1}^r m_i^{-k_i}\right)\frac{C(m_{r+1},n_s)}{m_{r+1}}\left(\prod_{j=1}^s n_j^{-l_j}\right)

ですが、m_{r+1} に関する和だけ取り出すと

\begin{align*}\displaystyle\sum_{m_{r+1}=m_r+1}^{\infty} \frac{1}{m_{r+1}}C(m_{r+1},n_s)&=\sum_{m_{r+1}=m_r+1}^{\infty} \frac{(m_{r+1}-1)!n_s!}{(m_{r+1}+n_s)!}\\&=\sum_{m_{r+1}=m_r+1}^{\infty} \frac{1}{n_s}\left(\frac{(m_{r+1}-1)!n_s!}{(m_{r+1}+n_s-1)!}-\frac{m_{r+1}!n_s!}{(m_{r+1}+n_s)!}\right)\\&=\frac{1}{n_s}\frac{m_r!n_s!}{(m_r+n_s)!}\\&=\frac{1}{n_s}C(m_r,n_s)\end{align*}

となります。これをもとの表示に代入すると

\displaystyle Z(\boldsymbol{k}_{\rightarrow};\boldsymbol{l})=\sum_{0 = m_0 < m_1 < \cdots < m_r \atop{0 = n_0 < n_1 < \cdots < n_s}}\left(\prod_{i=1}^r m_i^{-k_i}\right)\frac{C(m_r,n_s)}{n_s}\left(\prod_{j=1}^s n_j^{-l_j}\right)

であるため、結局

\displaystyle Z(\boldsymbol{k}_{\rightarrow};\boldsymbol{l})=Z(\boldsymbol{k};\boldsymbol{l}_{\uparrow})

がわかります。また、対称性 Z(\boldsymbol{k};\boldsymbol{l})=Z(\boldsymbol{l};\boldsymbol{k}) が自明に成り立つので、

\displaystyle Z(\boldsymbol{k}_{\uparrow};\boldsymbol{l})=Z(\boldsymbol{k};\boldsymbol{l}_{\rightarrow})

も確かですね。この二本の等式を合わせて 輸送関係式 と呼びます。なぜ輸送と呼ばれるのかですが、例えばこれを用いて


\begin{align*}\displaystyle \zeta(2,1,3)&=Z(2,1,3;\varnothing)\\&=Z(1+1,1,1+1+1;\varnothing)\\&=Z(1+1,1,1+1;1)\\&=Z(1+1,1,1;1,1)\\&=Z(1+1,1;1,1+1)\\&=Z(1+1;1,1+1+1)\\&=Z(1;1,1+1+1,1)\\&=Z(\varnothing;1,1+1+1,1+1)\\&=Z(\varnothing;1,3,2)\\&=\zeta(1,3,2)\end{align*}

という具合の変形ができますが、これを見るとまさに左側の ,1 を右側の +1 に、左側の +1 を右側の ,1 に「輸送」している感じがしますね。一方、先ほど言ったように、Hoffman 代数だと右矢印は y に、上矢印は x に対応するので、輸送関係式を繰り返し適用することは即ち

yx に、xy に輸送する」

こととなります。ところでこれはまさに、反自己同型 \tau の定義ですね!!!


ということで、輸送関係式を繰り返し適用することで双対性が証明できることが確認できました。


いかがでしたか?

大野関係式への応用

大野関係式について復習しておきましょう。許容インデックス \boldsymbol{k}=(k_1,\ldots,k_r) と非負整数 h に対し

\displaystyle O_h(\boldsymbol{k})=\sum_{e_1,\ldots,e_r\ge 0\atop{e_1+\cdots +e_r=h}} \zeta(k_1+e_1,\ldots,k_r+e_r)

とおき、これを 大野和 と呼びます。大野関係式は次の定理です:


許容インデックス \boldsymbol{k} と非負整数 h に対し

O_h(\boldsymbol{k})=O_h(\boldsymbol{k}^{\dagger})

が成り立つ。


もちろん大野和は h=0 のとき多重ゼータ値に一致する O_0(\boldsymbol{k})=\zeta(\boldsymbol{k}) ので、大野関係式は双対性を含んでいることがわかります。さて大野関係式の証明ですが、h に関する母関数を O(\boldsymbol{k}) と書くと


\begin{align*}O(\boldsymbol{k})&=\sum_{h=0}^{\infty} O_h(\boldsymbol{k})x^h\\&=\sum_{h=0}^{\infty} \sum_{e_1,\ldots,e_r\ge 0\atop{e_1+\cdots+e_r=h}} \zeta(k_1+e_1,\ldots,k_r+e_r)x^h\\&=\sum_{h=0}^{\infty} \sum_{e_1,\ldots,e_r\ge 0\atop{e_1+\cdots+e_r=h}} \sum_{0 < n_1 < \cdots < n_r} n_1^{-k_1-e_1}\cdots n_r^{-k_r-e_r}x^h \\&=\sum_{0 < n_1 < \cdots < n_r} \sum_{e_1,\ldots,e_r\ge 0}n_1^{-k_1-e_1}\cdots n_r^{-k_r-e_r}x^{e_1+\cdots+e_r}\\&=\sum_{0 < n_1 < \cdots < n_r} n_1^{-k_1}\left(1-\frac{x}{n_1}\right)^{-1}\cdots n_r^{-k_r}\left(1-\frac{x}{n_r}\right)^{-1}\\&=\sum_{0 < n_1 < \cdots < n_r} n_1^{1-k_1}\left(n_1-x\right)^{-1}\cdots n_r^{1-k_r}\left(n_r-x\right)^{-1}\end{align*}

となります。この母関数の双対性 O(\boldsymbol{k})=O(\boldsymbol{k}^{\dagger}) を示すことができたなら、係数比較して大野関係式を取り出すことができます。ではこの母関数を適切なコネクターで繋いで輸送関係式を準備すればいいわけですが、今度は

\displaystyle C(m,n;x)=\frac{(1-x)_m(1-x)_n}{(1-x)_{m+n}}

とおいてみましょう。ここで (X)_N=X(X+1)\cdots (X+N-1) は Pochhammer 記号です。

連結和も同様に

\begin{align*}\displaystyle Z(\boldsymbol{k};\boldsymbol{l};x)&=\sum_{0 = m_0 < m_1 < \cdots < m_r\atop{0 = n_0 < n_1 < \cdots < n_s}} \left(\prod_{i=1}^r m_i^{1-k_i}(m_i-x)^{-1}\right)C(m_r,n_s;x)\left(\prod_{j=1}^s n_j^{1-l_j}(n_j-x)^{-1}\right)\end{align*}

と定めておくと、

\begin{align*}\displaystyle Z(\boldsymbol{k}_{\rightarrow};\boldsymbol{l};x)&=\sum_{0 = m_0 < m_1 < \cdots < m_r < m_{r+1}\atop{0 = n_0 < n_1 < \cdots < n_s}} \left(\prod_{i=1}^r m_i^{1-k_i}(m_i-x)^{-1}\right)\frac{C(m_{r+1},n_s;x)}{m_{r+1}-x}\left(\prod_{j=1}^s n_j^{1-l_j}(n_j-x)^{-1}\right)\end{align*}

となり、双対性のときと同じように m_{r+1} に関する和だけ取り出すと

\begin{align*}\displaystyle\sum_{m_{r+1}=m_r+1}^{\infty} \frac{1}{m_{r+1}-x}C(m_{r+1},n_s;x)&=\sum_{m_{r+1}=m_r+1}^{\infty} \frac{(1-x)_{m_{r+1}-1}(1-x)_{n_s}}{(1-x)_{m_{r+1}+n_s}}\\&=\sum_{m_{r+1}=m_r+1}^{\infty} \frac{1}{n_s}\left(\frac{(1-x)_{m_{r+1}-1}(1-x)_{n_s}}{(1-x)_{m_{r+1}+n_s-1}}-\frac{(1-x)_{m_{r+1}}(1-x)_{n_s}}{(1-x)_{m_{r+1}+n_s}}\right)\\&=\frac{1}{n_s}\frac{(1-x)_{m_r}(1-x)_{n_s}}{(1-x)_{m_r+n_s}}\\&=\frac{1}{n_s}C(m_r,n_s;x)\end{align*}

と計算できます。故に全く同様の輸送関係式

\begin{align*}\displaystyle Z(\boldsymbol{k}_{\rightarrow};\boldsymbol{l};x)&=Z(\boldsymbol{k};\boldsymbol{l}_{\uparrow};x)\\Z(\boldsymbol{k}_{\uparrow};\boldsymbol{l};x)&=Z(\boldsymbol{k};\boldsymbol{l}_{\rightarrow};x)\end{align*}

が成り立ち、以降は全く同様の議論により大野関係式 O(\boldsymbol{k})=O(\boldsymbol{k}^{\dagger}) が証明できます。


さらなる応用と関連する話題


q-類似の世界では積分の変数変換が通常よりも難しい (はっきりとした理論がまだ構築されていない) ために、q-双対性の積分表示による「自明」な証明はありませんでしたが、コネクター級数の変形しか用いていないため、q のついた世界でもそのまま適用することができます。コネクターの形は、双対性と大野関係式の場合でそれぞれ

\begin{align*}\displaystyle C_q(m,n)&=q^{mn}\frac{[m]_q![n]_q!}{[m+n]_q!}\\C_q(m,n;x)&=q^{mn}\frac{[m;x][n;x]}{[m+n;x]}\end{align*}

となります。ここで

\displaystyle [N]_q!=\prod_{i=1}^N \frac{1-q^i}{1-q}

q-階乗で、

\displaystyle [N;x]=\prod_{i=1}^N \left(\frac{1-q^i}{1-q}-q^ix\right)

とおきました。このコネクターによる q-双対性および q-大野関係式の証明は読者の演習問題とします。


また、コネクターによる証明法を 連結和法 といったり、あるいは輸送を通じてダイナミックに証明されているとみて 動的証明法 といったりしますが、関真一朗さんによる RIMS での講演のサーベイ

arxiv.org

では、大野関係式以外にも様々な多重ゼータ値の関係式が連結和法で証明できることが記されています。