等差数列の無限積
この記事はこの曲を聴きながら読むのがオススメです:
The Jacksons - Can You Feel It
The Jacksons - Can You Feel It [Audio HQ] HD
こんにちは。たけのこ赤軍です。
2017年4月1日に行われたイベント「ロマンティック数学ナイト ボーイズ」に参加したのですが、それの終了後に行われた懇親会にて鯵坂もっちょ氏より「発見したことをまとめるブログをやってみてはどうか」というお話を受け、このようなブログを開設いたしました。よろしくお願いします。
本記事では、タイトルにある「等差数列の無限積」について紹介したいと思います。
等差数列というと、隣り合う項の差が一定な数列として定義される数列のことを指します。一般項は、で与えられます。
この一般項の式において、「公差」と呼ばれるものがで「初項」がにあたります。
つまり、「等差数列の無限積」というのは以下のような積を指すわけです:
ただ、これを真面目に計算してもほとんどの場合発散してしまうことがすぐにわかります。たとえば、でやってみると積は
と、すべての奇数の積になります。これは当然発散です。
しかし、実はこのような発散する積に対しても、一つの意味ある値を与えるための手続きが存在します。
それが「正規積」と呼ばれるものです。その定義は以下:
数列に対して、のゼータ関数を
と定める。
このとき、の正規積は
で与えられる。
最後のは、で微分してからを代入することを表しています。
何故このような定義なのかということですが、これは実際にを微分してを代入してみるとすぐにわかります(ここでは割愛)。
では、この定義を使って早速の正規積を計算していきましょう。
このとき、等差数列のゼータ関数は次のようになります:
ここで、はフルヴィッツゼータ関数です(定義はWikipediaを参照)。
となりました。
一見ややこしい式ですが、を代入すれば
となり、特殊値を使うことで
というふうにフルヴィッツゼータの微分だけで書くことができます。あとはただこの微分を計算するだけです。
ここでは、黒川信重先生の名著「現代三角関数論」第2章3節にある証明をところどころ引用しながら進めていきます。
結論から言うと、
となります。
これはレルヒの公式と呼ばれるもので、 チェコの数学者マティアス・レルヒ(1860-1922)によって発見されたものです。
これを示すためには、
とおいて、
となることをいえばよいですね。証明は次の三段階で行いましょう:
(1) を示す。したがって、の形となる。ただしは定数。
(2) を示す。これからがわかりとなる。
(3) を示す。これにより、がわかる。
(1)の証明
をについて回微分すると
です。ここで
をで微分すると
となります。これをで微分してとすると
となります。一方、
という無限積表示(これはワイエルシュトラスによるものですね)がありましたから、
を得られます。よって、で微分すると、
となります。したがって
となって(1)が示されました。
(2)の証明
において
および
を用いると、
となり、
を得ます。よって(2)が示されました。
(3)の証明
を計算します。まず、
に注目すると、
となります。また、特殊値を用いることで
ということが導けます。したがって、
となります。これで(3)も示せました。レルヒの公式、これにて撃破。
では、これを使って再び等差数列の積の計算をすすめましょう。あとちょっと。
先程これを述べましたね:
これにレルヒの公式を適用してやることで、
とできます。
正規積の定義というのは「数列のゼータを微分して、を代入して、マイナスをつけて、指数関数に入れる」ということでしたから、いまこの時点では「を代入して」まで終わったことになりますね。
じゃあ、もう残った作業はこの式にマイナスを付けて指数関数に放り込むことだけです。ささっとやっちゃいましょう:
完成。
改めてきちんと結論を書いておきます。
これが「等差数列の無限積」というものです。
とくに、とすると面白い結果が得られます:
この結果は、レルヒの公式が発表されるより前にリーマンが関数等式を用いて得ていたとされています。それについては僕もまだ計算できていないので、わかった方はコメントなりTwitterにリプライなりして頂けると嬉しいです。
ちょっとした問題演習を載せておきます。
おひまな方は取り組んでください、解けた方はコメントあるいは僕のTwitterまで。
問 以下の数列の正規積を求めよ。存在しない場合は証明せよ。
(1) 正の奇数
(2) の冪
(3) 素数