クロネッカーの極限公式
この記事はこの曲を聴きながら読むのがオススメです:
NONA REEVES - 地球儀と野鼠
前回の記事
o-v-e-r-h-e-a-t.hatenablog.com
で解説した定理2、RAES(実解析的アイゼンシュタイン級数)のフーリエ展開を使うときが再びやってまいりました。
続きものなので、前回の記事を読んでいない方は先に読むことをおすすめします。
はラマヌジャンが発見した関数の一種で、いわゆる保型形式というやつです(その中でも正則な部類に入る)。
これは今まで学んだ数学の中で僕が一番好きな関数なので、今後幾つか関連記事を書こうと思います。
[証明]
予告した通りRAESの展開を使うのですが、すこし変形しておきます。
まず第二項の分子にあるを関数等式によってこう変形します:
分母にあるは定義どおりにそのまま展開すると、以下のようになりました:
これにちょっと細工をしてやることでを求めていくのですが、その前にちょっとだけ準備をしましょう。
まず、ガンマ関数のローラン展開について考えます。この関数はに位の極を持つ以外に極はないので、ローラン展開の負部分はの項で打ち止めですね。
つまり、こう書けるわけです:
ここでは「以上の項」のような意味です。
さて、これを用いることでいい感じの関数に対して以下のようなことができます:
これを、とに対して適用すると
より、が従います。また、
もすぐにわかりますね。はわざわざ添え字を書くのもアホらしいのでとしておきましょう。
そして、式中にはなんてのが出てきていますが、前回の記事・定理3で
を示しているので、一般に
の計算方法がわかればこれも計算できます。では調べてみましょう。
において、というふうに変数を変換します。すると、
なので、
ということに注目すると
ここで、再び変数変換を行います。今度は、
なので、
より(この変数変換で一度積分範囲が上下逆に入れ替わってることに注意してください)、
となって、関数は簡単な微分方程式
を満たすことがわかりました。これの解は、を定数として
とされます。とすることで、
より、
が得られました。
これを先程導いたの表示式に代入すると
これで定理左辺の計算は終わったので、右辺の計算に移行しましょう:
実部の計算は面倒なのでそこだけ抜き出して行うと、
となるので、
がわかります。最後の変形では、シグマの変数を新しい変数に改めています。
これを倍してシグマの変数をからに差し替えることで、
となって、定理左辺と一致しました。これにてクロネッカーの極限公式、証明終了です。
しかし、どこか物足りない感じがしますね。
定理左辺の、これはRAESをで微分してを代入することを表しています。
しかもRAESの定義において、変数はシグマ内部をまるごと乗するというところに現れています。
となると、正規積に関連付けたくなりますね。実際、そういった言い換えが存在します:
[クロネッカーの極限公式・正規積バージョン]
[証明]
正規積の定義(以下記事参照)より、
o-v-e-r-h-e-a-t.hatenablog.com
としておきます。数列のゼータは「もとの数列を乗してシグマに入れる」が定義でしたから、こうなります:
ここのゼータの右下にくっついてるはクロネッカー(Kronecker)のです。デデキントゼータじゃないので代数体とかのとかではありません(岩波書店の数論2という本ではこのゼータはではなくとして表記されていますがなんかダサいのでやめました)。
ではコイツの計算をしていきましょう:
なので、微分してを代入することで
です。ただし、とを使っています。
前者は記事「等差数列の無限積」で示した定理でとした結果の対数を取ってマイナスを付けることで得られ、後者は記事「実解析的アイゼンシュタイン級数」で記載しました。
すると残った計算はだけになりますが、これはそのままクロネッカーの極限公式を使えば良いですね。
したがって、
です。これにマイナスを付けて指数関数に入れれば、
となって定理が示されました。
クロネッカーの極限公式、以上で終了です。
次回記事では、これを利用していくつかの無限積の特殊値などを求めていこうと予定しています。お楽しみに。