q-ヴァンデルモンドの公式
この記事はこの曲を聴きながら読むのがオススメです:
James Brown - Turn Me Loose, I'm Dr. Feel Good
James Brown - Turn Me Loose, I'm Dr. Feel Good
最近qがアツイです。ぼくの中で。
だというのに数学界隈にはなぜか一向にqが流行りません。
というわけで今日は面白い公式を一つ。
これはヴァンデルモンドの公式というやつです。まずは記号の説明。適当なパラメータ に対して
とおき、この記号をポッホハマー記号と呼びます。記号をいちいち書くのが面倒くさいので、 は と書くことにします。 を注意。
適当なパラメータ と に対して関数
で としたケースですね。
で、なんでこんな公式を扱おうと思ったかというとですね、tsujimotterさんの記事を読んだのです:
tsujimotter.hatenablog.com
この記事にあるように、証明自体は超幾何級数の変形だけで可能です。しかしぼくはq-人類、qを使わずして証明とは言えません。
というわけでヴァンデルモンドの公式のq-類似を示していこうと思います。
記号の準備。ひとまず とします。q-ポッホハマー記号を
と定めます。古典極限
はかんたんですね。無限版のq-ポッホハマー記号
を用いて
と書けることに注意してください。この記号を使えばq-超幾何級数も
というふうに定義できます。古典極限は
というかんじ。
よし証明だ。まずq-二項定理を示します。
実はこの定理に関しては以前の記事
o-v-e-r-h-e-a-t.hatenablog.com
でも言及したのですが、証明はしていないのでいざ。
としたとき
なので
とおくと
より両辺で係数比較して
を得られます。そして明らかに なので
となります。よって、
という等式を得ました。これがq-二項定理。もちろん古典極限をとるとニュートンの一般二項定理に帰着します。
さてお次はハイネの変換公式。これが証明のミソです。話題にするのは 級数。ひといきに証明します:
やっていることを大雑把に説明すると、
1. の因子の一部をバラす
2.バラしたところをq-二項定理で展開する
3.整理する
4.余った部分をq-二項定理でまとめる
5.整理する
といった感じです。
q-二項定理のように「超幾何級数 = 積」という形の等式を「和公式」と呼ぶことが多いのですが、ハイネの変換公式ではまさに「超幾何級数をバラして和公式を複数回適用して組み立て直す」ということをやっています。
和公式はq-二項定理以外にもたくさんありますし、変換公式もハイネの変換公式以外にたくさんありますが、いずれも証明の根本部分は殆ど変わりません。やっていることは「級数をバラす→和公式を適用→組み直し」のプロセスです。
では本題に戻って、つぎはハイネの和公式の証明。といっても一瞬で、ハイネ変換に を代入すればよいのです:
はいOK。これがハイネの和公式。もちろんこれも和公式の一種です。
さて目的は、q-ヴァンデルモンドの公式でしたね。証明はかんたんで、ハイネの和公式に を放り込んで終わり。
という具合。 を に、 を に変えてから古典極限 をとれば簡単にもとのヴァンデルモンドの公式が得られます。
qの計算、いかがでしたでしょうか。慣れてない人にはちょっと重かったかもしれません。
でもqのお気持ちみたいなのはちょっとわかってもらえたかな、と思います。
ちなみに、最後で超幾何級数のパラメータに を代入しましたが、これは打ち止め (terminate, 訳語がなかったので暫定でこう呼ぶ, 決してラストオーダーではない) という操作です。 は のとき消えるので、無限和である超幾何級数を文字通り有限和にする操作というわけですね。
有限超幾何級数 (terminating hypergeometric series) はたくさんの和公式や変換公式が発見されており、それらを駆使することでアスキー=ウィルソン積分を計算したりすることもできます。
というワケでみなさんも是非qがらみの計算にトライしてみてください!
q^(-n)の代入をラストオーダーと呼ぶのもあながち間違いじゃないのかもしれない