I Wanna Be Your Modular
この記事はこの曲を聴きながら読むのがオススメです:
Nona Reeves - Sweet Survivor
NONA REEVES 『Sweet Survivor』
本記事は 日曜数学 Advent Calendar 2017 - Adventar 23日目の記事です。22日目の記事はmattyuu氏による p進距離はなぜ特別か? - mattyuuの数学ネタ集 でした。
世の中には「モジュラー形式」というものがあります。
よく知られているものだと、フェルマーの最終定理を証明する際にワイルズがこれと楕円曲線との関連を示したというところです。
これを黒川信重先生による"絶対数学"の舞台に乗せてできたものが Absolute Modular Form、「絶対保型形式」です。定義は少々面倒なので、今日はすこし具体例を眺めてみましょう。
1900年ごろ、バーンズはガンマ関数の多重化というアイデアを考えつきました―――これこそが黒川先生らの考える多重三角関数論の源流です。
これはレルヒの公式の一般化によって定義されるものであり、通常のガンマ関数と同じように無限積で書き下すことができます。
ここで \begin{eqnarray}\displaystyle\zeta_r(s,w,\omega)=\sum_{{\bf n}\geq{\bf 0}}^{} ({\bf n}\cdot\omega+w)^{-s},\end{eqnarray}
は によってきまる の 次多項式で、 というのは に対して かつ であることをいいます。
はボールド体ではない(TeXで打てなかった)ですが、複素数 個の組 だと理解してください。
です。
さてこれらを比較してみると、まず が気になりますね。 はもともと を一般化したものですから、 を一般化して が出てきたのだと推測できます。
o-v-e-r-h-e-a-t.hatenablog.com
で紹介したレルヒの公式からすると、 でなくてはならないはずです。そして、この値はまた
でもありました。複素数 個の組 は「周期」と呼ばれ、多重ガンマ関数 の補助的な変数になっています(メインの変数はもちろん )。つまり、一般化を逆にたどると であるということですね。
ここまでくると、 をどう定義すればいいかはもう見当がつきます。もちろん
\begin{eqnarray}\displaystyle\rho_r(\omega):=\prod_{{\bf 0}\neq{\bf n}\geq{\bf 0}}^{} {\bf n}\cdot\omega\end{eqnarray}
ということですね。ところでこれは正規積なので、書き直してみると
\begin{eqnarray}\displaystyle\zeta_r^{\star} (s,\omega)=\sum_{{\bf 0}\neq{\bf n}\geq{\bf 0}}^{} ({\bf n}\cdot\omega)^{-s}\end{eqnarray}
として
\begin{eqnarray}\displaystyle\rho_r(\omega):=\exp\left(\left.\frac{\partial}{\partial s}\zeta_r^{\star} (s,\omega)\right|_{s=0}\right)\end{eqnarray}
とも書けますね。ということで、こいつが今回扱う「絶対保型形式の一例」です。本記事の目標は における特殊な例、 を明示的に求めることとしましょう。
それを示すためにはたくさんの道具が必要なのですが、そのうちの一つをここで定義します:
\begin{eqnarray}\displaystyle\zeta_4^M(s):=\sum_{m\geq{1},n\geq{0}}^{} (m+ni)^{-s}\end{eqnarray}
これは私が導入した関数で、私が勝手に4次元モノイドゼータと呼んでいるものです。詳細については2018/1/7に数学カフェで行われる講演の資料(終了後公開予定)を参照してください。
[補題1(ポアソン和公式)]
\begin{eqnarray}\displaystyle\sum_{n\in\mathbb{Z}}^{} f(n)=\sum_{m\in\mathbb{Z}}^{} \widehat{f}(m)\end{eqnarray}
[証明]
に対してのフーリエ変換の定義
\begin{eqnarray}\displaystyle\widehat{f}(y):=\int_{-\infty}^{\infty} f(x)e^{-2\pi ixy} dx\end{eqnarray}
を思い出しておきます。
としたとき、 は明らかに周期 なのでフーリエ展開
をもつ、というのがわかります。
\begin{eqnarray}a_n&=&\int_0^1 h(x)e^{-2\pi inx}dx\\&=&\sum_{m\in{\mathbb{Z}}}^{} \int_0^1 f(x+m)e^{-2\pi inx}dx\end{eqnarray}
ですが、 で変数変換すると積分範囲は から となり、 より
\begin{eqnarray}a_n&=&\sum_{m\in\mathbb{Z}}\int_m^{m+1} f(y)e^{-2\pi in(y-m)}dy\\&=&\int_{-\infty}^{\infty} f(y)e^{-2\pi iny}dy\\&=&\widehat{f}(n).\end{eqnarray}
ゆえに
\begin{eqnarray}h(x)&=&\sum_{n\in\mathbb{Z}}^{} f(x+n)\\&=&\sum_{n\in\mathbb{Z}}^{} \widehat{f}(n)e^{2\pi inx}.\end{eqnarray}
となります。両辺で とすると目的の公式を得られます。[証明終]
[補題2(リプシッツ和公式)]
\begin{eqnarray}\displaystyle\sum_{m\in\mathbb{Z}}(m+z)^{-s}=\frac{(-2\pi i)^s}{\Gamma(s)}\sum_{m=1}^{\infty} m^{s-1}e^{2\pi imz}\end{eqnarray}
[証明] ※日本語で証明している本・文献が見つからなかったのでクノップとロビンスの論文"Easy proofs of Riemann's functional equation for and of Lipschitz summation"のTheorem 1の証明を参考にしています。
として、ポアソン和公式を適用します:
\begin{eqnarray}\displaystyle\sum_{m=1}^{\infty} m^{s-1}e^{2\pi imz}&=&\sum_{n\in\mathbb{Z}}^{} f(n)\\&=&\sum_{m\in\mathbb{Z}}^{} \widehat{f}(-m)\\&=&\sum_{m\in\mathbb{Z}}^{} \int_{0}^{\infty} x^{s-1}e^{2\pi ixz}e^{2\pi imx}dx\\&=&\sum_{m\in\mathbb{Z}}^{} \int_{0}^{\infty} x^{s-1}e^{-(-2\pi i(m+z))x}dx\\&=&\sum_{m\in\mathbb{Z}}^{} (-2\pi i(m+z))^{-s}\Gamma(s)\end{eqnarray}
となって、両辺を整理すると証明できます。[証明終]
さてこれを使うことで、 の解析接続(のような何か)を行うことが可能です。自然対数の偏角を にとるものとして、
\begin{eqnarray}\displaystyle\zeta_4^M(s)&=&\frac{(1+e^{-\frac{i\pi s}{2}}+e^{-i\pi s}+e^{\frac{i\pi s}{2}})}{(1+e^{-\frac{i\pi s}{2}}+e^{-i\pi s}+e^{\frac{i\pi s}{2}})}\zeta_4^M(s)\\&=&\frac{1+i^{-s}+(-1)^{-s}+(-i)^{-s}}{(1+e^{-\frac{i\pi s}{2}}+e^{-i\pi s}+e^{\frac{i\pi s}{2}})}\zeta_4^M(s)\\&=&\frac{1}{(1+e^{-\frac{i\pi s}{2}}+e^{-i\pi s}+e^{\frac{i\pi s}{2}})}\sum_{m,n\in\mathbb{Z}\atop{(m,n)\neq{(0,0)}}}^{} (m+ni)^{-s}\\&=&\frac{1}{(1+e^{-\frac{i\pi s}{2}}+e^{-i\pi s}+e^{\frac{i\pi s}{2}})}\sum_{m,n\in\mathbb{Z}\atop{(m,n)\neq{(0,0)}}}^{} (m+ni)^{-s}\\&=&\frac{1}{(1+e^{-\frac{i\pi s}{2}}+e^{-i\pi s}+e^{\frac{i\pi s}{2}})}\left(\sum_{m,n\in\mathbb{Z}\atop{n\neq{0}}}^{} (m+ni)^{-s}+\sum_{0\neq\in\mathbb{Z}}^{} m^{-s}\right)\\&=&\frac{1}{(1+e^{-\frac{i\pi}{2}}+e^{-i\pi s}+e^{\frac{i\pi}{2}})}\left( (1+(-1)^{-s})\sum_{m\in\mathbb{Z},n\geq{1}}^{} (m+ni)^{-s}+(1+(-1)^{-s})\zeta(s)\right)\\&=&\frac{1+e^{-i\pi s}}{(1+e^{-\frac{i\pi s}{2}}+e^{-i\pi s}+e^{\frac{i\pi s}{2}})}\left(\zeta(s)+\sum_{m\in\mathbb{Z}}^{} \sum_{n=1}^{\infty} (m+ni)^{-s}\right)\\&=&\frac{1+e^{-i\pi s}}{(1+e^{-\frac{i\pi s}{2}}+e^{-i\pi s}+e^{\frac{i\pi s}{2}})}\left(\zeta(s)+\sum_{n=1}^{\infty} \frac{(-2\pi i)^s}{\Gamma(s)}\sum_{m=1}^{\infty} m^{s-1}e^{-2\pi mn}\right)\end{eqnarray}
となるので、和の変数を から におきかえて整理すると
を得ます。これは通常発散するはずの値も求めることができて、今回使うのは の場合です(一般の負の整数に対しても明示的に求めることが可能です。1/7数学カフェで詳細をお話します)。簡単に計算できて
\begin{eqnarray}\displaystyle\zeta_4^M(0)=-\frac{1}{4}\end{eqnarray}
となります。この値を後で使います(っていうかこの記事で を導入したのはこれを使うためだけです)。
これはまだ準備段階の更に最初の方で、ここから延々と計算のキツイ補題が続いていくのですが、一つの記事に収めるのは到底不可能なのでここではいくつかをFactとして認めることにします(あまりにも記述量が膨大になってしまうことに投稿一日前に気づきました。ごめんなさい。今度書きます)。
とりあえず、明解にするために一番大きな定理をここで出してしまいます:
[主定理(新谷、1980)]
ここで
まずこれを使って目標である を先に求めてしまいます(膨大な記述、というのはこの定理の証明のことです): として、
となり、それなりに簡単に書けました。
次に、また記号を改めた関数を導入します:
これを使うと、今問題にしている が次のように書けます:
そして、
となることより、
というのが導かれます。また、
なのでもちろん です。ここから
がわかって、さっき導いた の式と合わせて
が出ます。 を中心に整理すると
となりますね。まだ残っている が気になりますが、これは
o-v-e-r-h-e-a-t.hatenablog.com
の定理1と保型形式間に成り立つ関係式
からすぐに値を求めることができます(この関係式については
も参照)。実際には なので、結局
となります。
さて、一番面倒な主定理の証明ですが、長すぎるのでかなり天下り的になってしまいました。ご了承ください(後ろから読んでいくのを推奨します)。先に記号をいくつか定義します:
として定義されます。イメージとしては無限の長さを持つ丸底フラスコを右に倒した感じです。
はベルヌーイ多項式です。定義は になるほう。
以下の補題3,4,5,6をひとまず認めることにします:
補題6はスターリングの公式なので簡単に証明できるはずですが、補題3,4,5はどれも面倒です(3は比較的簡単。
補題7以降は証明を与えます。
[証明]
(1)
あとはレルヒの公式でおわり。
(2)
o-v-e-r-h-e-a-t.hatenablog.com
より
がいえるので
より、上の式で として となります。
[証明終]
[証明]
補題7より
これを繰り返し使って
となって、
[証明終]
[証明]
[証明終]
[証明]
補題9で とすると
より
補題7(2)より なので の定義より となる、よって となって
[証明終]
12/24の記事は盛田みずすまし氏の記事です、お楽しみに。