たけのこ赤軍の自由帳

多重ゼータ値とNona ReevesとKIRINJIとRHYMESTERとPrince

Hoffman 双対性によるA-導分関係式の導出

\newcommand{\AA}{\mathcal{A}}
\newcommand{\hA}{\widehat{\AA}}
\newcommand{\bk}{\boldsymbol{k}}
\newcommand{\hof}{\mathfrak{H}}
\newcommand{\QQ}{\mathbb{Q}}
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本記事は Zeta Advent Calendar 2020 - Adventar の一日目の記事です。

Introduction

多重ゼータ値についてよく知られている関係式の一つに 導分関係式 derivation relation と呼ばれるものがあります。原論文である Ihara-Kaneko-Zagier [IKZ] では Hoffman 代数の完備化における代数的な計算を駆使して証明しています。一方で、Kaneko-Zagier [KZ] において導入された 有限多重ゼータ値 finite multiple zeta values の世界における導分関係式の類似が Murahara [M] によって証明されています。こちらも帰納法と word の計算に物を言わせたパワフルな証明ですが、本記事では Murahara-Onozuka [MO] に基づいて、Hoffman 双対性 Hoffman duality を用いた鮮やかな別証明を紹介します。

Remark. Horikawa-Murahara-Oyama [HMO] の Section 5 に本記事と本質的に同一の証明が記載されていました。情報提供をしていただいた同論文著者の小山宏次郎さんに感謝申し上げます。

Algebraic setup

本節では有限多重ゼータ値の定義と代数的定式化を復習します。商環
\displaystyle \AA={\left(\prod_p \mathbb{Z}/p\mathbb{Z}\right)}\Biggm/ {\left(\bigoplus_p \mathbb{Z}/p\mathbb{Z}\right)}
を考えると、対角的に有理数が埋め込めることからこれは \QQ-代数となります。正の整数の組 (k_1,\ldots,k_r) はしばしばインデックスと呼ばれますが、これに対して \AA の元
\displaystyle \zeta_{\AA}(k_1,\ldots,k_r)=\left(\sum_{0 < n_1 < \cdots < n_r < p}\frac{1}{n_1^{k_1}\cdots n_r^{k_r}}~\mathrm{mod}~p\right)_p
を有限多重ゼータ値と呼びます。

\hof=\QQ\langle x,y\rangle とおき、\hof^1=\QQ+y\hof をその部分代数とします。このとき \QQ-線型写像 Z_{\AA}\colon\hof^1\to\AAZ_{\AA}(1)=1Z_{\AA}(yx^{k_1-1}\cdots yx^{k_r-1})=\zeta_{\AA}(k_1,\ldots,k_r) (ここで (k_1,\ldots,k_r) は任意のインデックス) によって定まります。ところで \hof 上の導分とは \QQ-線型な準同型 d\colon \hof\to \hof であって Leibniz rule d(AB)=d(A)B+Ad(B) (A,B\in \hof) を満たすものですが、今回は正の整数 n に対して定まる \hof 上の導分として \partial_n(x)=-\partial_n(y)=y(y+x)^{n-1}x から決まるものを用いることとします。このとき、有限多重ゼータ値の導分関係式とは次の定理のことです。

定理 (有限多重ゼータ値の導分関係式; Murahara [M]).
任意の正整数 nw\in\hof^1 に対し Z_{\AA}(\partial_n(wx)x^{-1})=0 が成り立つ。

また、後のために Hoffman 代数上の 調和積 harmonic product を導入します。以後正整数 k に対し z=yx^{k-1} と書くことにします。\hof^1 上の双線型な積 \ast は規則  1\ast w=w\ast 1=wwz_k\ast w'z_l=(w\ast w'z_l)z_k+(wz_k\ast w')z_l+(w\ast w')z_{k+l}帰納的に定まります。ここで w,w'\in\hof^1 であり、k,l は正整数です。

Proof of the main theorem

\hof[t] 上の線型写像 \widetilde{S}_t\widetilde{S}_t(x)=x, \widetilde{S}_t(y)=y+tx で定め、これを使って \QQ[t]+y\hof[t] 上の線型写像 S_tS_t(1)=1S_t(w)=y\widetilde{S}_t(y^{-1}w) で定めます。また、\hof 上の準同型 \phi\phi(1)=1, \phi(x)=x+y\phi(y)=-y で与えられるものとし、\phi^t=S_{-t}\circ\phi\circ S_t とおきます。このとき次が成り立ちます:

補題 1 (有限多重ゼータ値の双対性; Hoffman [H]).
任意の w\in\hof^1 に対し Z^{\star}_{\AA}(w)=Z^{\star}_{\AA}(\phi^1(w)) が成り立つ。ここで Z^{\star}_{\AA}=Z_{\AA}\circ S_1 とおいた。
補題 2 (調和関係式).
任意の w,w'\in\hof^1 に対し Z_{\AA}(w\ast w')=Z_{\AA}(w)Z_{\AA}(w') が成り立つ。
補題 3 (depth 1 明示公式).
任意の正整数 k に対し \zeta_{\AA}(k)=0 が成り立つ。


任意の a,b に対し S_{a+b}=S_a\circ S_b であることより S_{-1}S_1 の逆写像であることがわかります。この事実と S_1(\hof^1)=\hof^1 より、補題 1 は任意の w\in\hof^1 に対し Z_{\AA}(w)=Z_{\AA}(\phi(w)) が成り立つことと同値です。この等式において w\partial_n(wx)x^{-1} に置き換えることで、示すべき式は Z_{\AA}(\phi(\partial_n(wx)x^{-1}))=0 となりました。

また、正整数 n に対し \hof 上の新しい導分を \delta_n(x)=0\delta_n(y)=z_n(y+x) で定めると、調和積の定義より \delta_n(w(y+x))(y+x)^{-1}=w\ast z_n が成り立つことがわかります。なお、記号的に便利なので形式的に inverse を書いていますが、商体に拡張した議論をする必要はなく、\delta_n(w(y+x)) は定義より必ず \hof(y+x) の元になります (導分関係式の主張も同様)。

\phi が自己同型かつ \delta_n が導分であることから \phi\circ\delta_n\circ\phi もまた導分で、生成元の移り方がそれぞれ x\mapsto y+x\mapsto z_n(y+x)\mapsto -y(y+x)^{n-1}x, y\mapsto -y\mapsto -z_n(y+x)\mapsto y(y+x)^{n-1}x となることより \phi\circ\delta_n\circ\phi=-\partial_n\hof 上で成り立ちます。このことと \phi^2=\mathrm{id} であること (演習問題) から w\in\hof^1 に対し \phi(\partial_n(wx)x^{-1})=-\delta_n(\phi(wx))(y+x)^{-1}=-\delta_n(\phi(w)(y+x))(y+x)^{-1}=-\phi(w)\ast z_n となり、両辺の Z_{\AA} での像を見ることで Z_{\AA}(\phi(\partial_n(wx)x^{-1}))=-Z_{\AA}(\phi(w))Z_{\AA}(z_n)補題 3 より 0 となることが従います。これで定理が証明されました。

References

[IKZ] K. Ihara, M. Kaneko and D. Zagier, Derivation and double shuffle relations for multiple zeta values, Compos. Math. 142 (2006), 307-338.
[H] M. E. Hoffman, Quasi-symmetric functions and mod p multiple harmonic sums, Kyushu J. Math. 69 (2015), 345–366.
[HMO] Y. Horikawa, H. Murahara and K. Oyama, A note on derivation relations for multiple zeta values and finite multiple zeta values, arXiv:1809.08389.
[KZ] M. Kaneko and D. Zagier, Finite multiple zeta values, in preparation.
[M] H. Murahara, Derivation relations for finite multiple zeta values, Int. J. Number Theory 13 (2017), 419-427.
[MO] H. Murahara and T. Onozuka, Derivation relation for finite multiple zeta values in \hA, arXiv:1809.02572v3.

Announcement

明日の記事は tsujimotter さんが "局所ゼータ関数について書こうと思" った記事
tsujimotter.hatenablog.com
です。