たけのこ赤軍の自由帳

数論とかNonaReevesとかが好きな高校生のブログ。

青鬼6.23RTAの話

突然ですが、青鬼 というゲームがあります。

ウェブ上で無料配布されている謎解き型ホラーゲームです。青い謎のオバケから逃げ回って探索をしていきます。

私は数年前からこのゲームのRTA(リアルタイムアタック)をやっておりまして、それに必要な技術について少し考察したのでここに述べておきます。




青鬼は先述の通り鬼から逃げるゲームでもあるのですが、その中のワンシーンに 地下牢 が登場します。

f:id:O_V_E_R_H_E_A_T:20190809024326p:plain
地下牢

この中に落ちている鍵 (光っているものがそれです) を拾うと、下の扉から青鬼が入ってきます。しかし彼 (?) は牢の扉を開けることができず、しばらく放っておくと突然画面が切り替わり鬼の顔がアップになって鉄格子を揺らしてくるシーンが挿入されます。

初見の人をビビらせるシーンの一つであり、実況プレイ動画では名物となっています。




しかしタイムアタックをやるうえではこのような演出を待っていては大幅なタイムロスになります。したがって、鬼が入ってきたらすぐに牢の扉を開け、檻の中でうまく鬼をかわして出ていく必要があるわけです。


さて言葉を定義しましょう。まず檻の中の面積は 3\times 7 マスあります。今からここに離散的な座標を振っていきます: 左上のマスを (1,1) とし, 右下のマスを (3,7) とおきます。上の画像でひろし (主人公) が立っているのは (2,3) ですね。


鬼を檻の中でかわすには、檻の中の一番外側をぐるっと回るのが一番確実だというのが容易に推測できます。扉の目の前は (3,2) ですから、扉を開けたらすぐに右へ走り、(3,7) についたら鬼を引き付けながら上へ走って (1,7) へ、そこから左に走って (1,2) に着き、真下へ向かって脱出という具合です (下記動画の 3:43 からがわかりやすいです。当然ながらホラー注意。)


【青鬼TA】営業成績一位の男にガチ実況させてみた コメント有


この脱出方法では、ひろしが面積 3\times 6 の長方形の外周を走って逃げていると考えられます。こういった脱出方法を [3,6]-type と呼ぶことにしましょう。


より一般に、面積 m\times n の長方形の上を逃げる方法を [m,n]-type と定めます (1\leq m \leq 3, 1\leq n \leq 6)。また、整数 m,n に対し [m,n]-type で実際に逃げ切れる場合 (m,n) は檻脱出問題の解である ((m,n) gives a solution of the escaping-in-jail problem) と呼ぶことにします。





さて、以下のような問題が考えられます:


[檻脱出問題の minimal solution]


檻脱出問題の解となる m,n の最小値はいくらか?

m=1,n=1 は明らかに解になりえないので、m\geq{2} かつ n\geq{2} を仮定します。





上記の結果 (王定六, 2011) より (m,n)=(3,6) という解が与えられました。しかしこれは最小ではなく、青にいと (2015) によってより強い評価が得られました:



\textbf{Theorem (Ao-Neet, 2015)}



檻脱出問題には解 (m,n)=(3,3) が存在する。

証明はこちら:

なお、青にいと氏の上記動画は青鬼 6.23のタイムアタックで現行最速となっています。



そして以下が私の主定理です:



\textbf{Theorem (Takenoko-Sekigun, 2019)}



檻脱出問題には解 (m,n)=(3,2), (2,3), (2,2) が存在する。

証明はこちら:


青鬼6.23檻脱出問題 ([2,2] 成功版)


仮定より、(m,n)=(2,2) の評価が最も強いので、檻の中での回避の最短ケースもこれで確定しました。

The structure of some operators of q-multiple gamma functions

メモ書きのような体裁で申し訳ありませんが, 忘れないうちに.


まず Shibukawa-Tanaka 型 q-multiple zeta:

\begin{eqnarray*}\displaystyle \zeta_r^q(s,w;{\boldsymbol{\omega}})=\sum_{b=\pm 1}\zeta_{r+1}(s,w;{\boldsymbol{\omega}},b\tau')-\zeta_r(s,w;{\boldsymbol{\omega}}).\end{eqnarray*}

とりあえず w,\omega_i は片側条件 (SOC のほうがいいか) を満たし, \tau' は上半平面の元とします.

\log\Gamma_{r,k}^q(w;{\boldsymbol{\omega}})=\frac{\partial}{\partial s}\zeta^q_r(-k,w;{\boldsymbol{\omega}})

は q-BM type multiple gamma. ぼくが導入した type の奴です. これは微分での reduction 条件 (Kinkelin's formula)

\frac{d}{dw}\log\Gamma^q_{r,k}(w;{\boldsymbol{\omega}})=k\log\Gamma^q_{r,k-1}(w;{\boldsymbol{\omega}})

を満たします. また ladder structure もあります. そして Tanaka type product expression が

\Gamma^q_{r,k}(w;{\boldsymbol{\omega}})=\exp\left(\frac{k!}{(\log q)^k}\sum_{n=1}^{\infty} \frac{q^{nw}}{n^{k+1}\prod_{j=1}^r (1-q^{n\omega_i})}\right)

です. Kinkelin と ladder はここから自明.



まぁとりあえず, 中身を抜き出しておきます:

\begin{eqnarray*}\displaystyle L_{r,k}(x;{\bf q}):=\sum_{n\geq{1}} \frac{x^n}{n^k\prod_{i=1}^r (1-q_i^n)}.\end{eqnarray*}

こうすると

\begin{eqnarray*}\displaystyle L_{r,k}(x;{\bf q})-L_{r,k}(xq_i;{\bf q})&=&L_{r-1,k}(x;{\bf q}\langle{i}\rangle)\\\frac{d}{dw}L_{r,k}(x;{\bf q})&=&L_{r,k-1}(x;{\bf q})\\\lim_{q_i\to 1}(1-q_i)L_{r,k}(x;{\bf q})&=&L_{r-1,k+1}(x;{\bf q})\\\sum_{m=0}^{\infty} L_{r,k}(xq_{r+1}^m;{\bf q})&=&L_{r+1,k}(x;{\bf q},q_{r+1})\end{eqnarray*}

ですね. それぞれ上から ladder, Kinkelin, Raabe と対応しますが, 一番下は何でしょうね. もしかしたら Shintani type product かな ? まぁともかく, これらを作用素と思って, 上から P_x, K, R_x, S_x と書くことにします (変数は当然動かすもの). そうすると R_x=K^{-1}P_x, S_x=P_x^{-1} ですね. 要するに (いまは) 本質的には P_x, K だけということです. なのでとりあえず今はこれらを生成元にした代数を考えたいですね (何かイイ感じの環係数の二変数多項式環の word とおもったほうがいいかも.).

まぁともかく, L_{r,k} はなんかいいかんじの polylog の一般化と思えそうなので, それらの parameter をある程度自由に調整できる作用素がほしかったわけです. r=0 (古典全振り) ならただの polylog になりますし, k=1 (量子全振り) なら Narukawa の q-polylog になります. せきゅーんさんの言葉を借りれば, 一般の L_{r,k} は ``変身途中" みたいなものですね. ねむい, 明日 (今日) は複素代数幾何セミナー発表ですが準備ぜんぜんおわってないです. 層むずい. Hartshorne で勉強したら fiber space の感覚にはなれないですね.





ところで, L_{r,k} の分母, 普通のべき乗と何かの変数が絡んだ因子が混ざり合ってるわけですけど, これ Ohno sum の母関数ににてませんか.

BM 型多重ガンマ関数とその周辺 (1)

この記事はこの曲を聴きながら読むのがオススメです:
Prince - Days Of Wild

Prince - Days of Wild



最近、私の BM 型多重ガンマ関数に関する結果が二つ出ました:

[1905.08068] The $q$-multiple gamma functions of Barnes-Milnor type

[1906.00344] Asymptotic Expansions for the multiple gamma functions of Barnes-Milnor type

しかしまぁ知名度の低い分野であることには変わりなく、この場でゆる~い入門記事でも書こうと思います。前提知識の要求はしませんが、変形はそこまで親切ではないのでちょっと慣れている必要があるかもしれません。

Barnes の多重ゼータ関数を以下で定めます:

\begin{eqnarray*}\displaystyle\zeta_r(s,w;{\boldsymbol{\omega}})=\sum_{\mathbf{n}\geq\mathbf{0}} (\mathbf{n}\cdot{\boldsymbol{\omega}}+w)^{-s}.\end{eqnarray*}

ここで r\geq{1}, {\boldsymbol{\omega}}=(\omega_1,\cdots,\omega_r) は実部が正の複素数 r 個の組とします。\mathbf{n}=(n_1,\cdots,n_r) は整数 r 個の組で、和の約束 \mathbf{n}\geq\mathbf{0}i=1,\cdots,r に対して n_i\geq{0} を意味するものとします。

変数 w はとりあえず実部が正としておきましょう。級数は今のところ \mathrm{Re}(s)>r で絶対かつ一様に収束するので、とりあえずこの範囲内で考えておきます。

いろいろやることはありますが、とりあえず特殊値でも計算してみましょう。準備のため多重 Bernoulli 多項式 a_{r,n} を以下で定めます:

\begin{eqnarray*}\displaystyle e^{-wt}f_{\boldsymbol{\omega}}(t)=\sum_{n\geq{-r}} a_{r,n}(w;{\boldsymbol{\omega}})t^n.\end{eqnarray*}

a_{r,n}wr+n多項式であることは簡単に示せます。さて実部が正の $a$ に対する古典的な公式

\begin{eqnarray*}\displaystyle a^{-s}\Gamma(s)=\int_0^{\infty} e^{-at}t^{s-1}\end{eqnarray*}

によって

\begin{eqnarray*}\displaystyle \zeta_r(s,w;{\boldsymbol{\omega}})&=&\Gamma(s)^{-1}\int_0^{\infty} f_{\boldsymbol{\omega}}(t)e^{-wt}t^{s-1}\end{eqnarray*}

がわかりますね。さてこの積分を次のようにカチ割りましょう:

\begin{eqnarray*}\displaystyle\Gamma(s)\zeta_r(s,w,{\boldsymbol{\omega}})&=&I_1(s)+I^n_2(s)+I^n_3(s)\\I_1(s)&=&\int_1^{\infty} f_{\boldsymbol{\omega}}(t)e^{-wt}t^{s-1}\,dt\\I^n_2(s)&=&\int_0^1 \left(\sum_{k=-r}^{n} a_{r,k}(w;{\boldsymbol{\omega}})t^k\right)t^{s-1}\,dt\\I^n_3(s)&=&\int_0^1 \left(f_{\boldsymbol{\omega}}(t)e^{-wt}-\sum_{k=-r}^{n} a_{r,k}(w;{\boldsymbol{\omega}})t^k\right)\\&{}&\times t^{s-1}\,dt.\end{eqnarray*}

この「被積分関数(の一部)を Laurent 展開して有限項ぶっこ抜く」は後々使う便利なメソッドなので覚えておいてください。

さてこのとき明らかに I_1 は整関数で、かつ I_3^n は中身が t\to{0}O(t^{n+s-1}) ぐらいのサイズなので \mathrm{Re}(s)>-n-1 で正則ですね。というワケで

\begin{eqnarray*}\displaystyle\zeta_r(-n,w,{\boldsymbol{\omega}})&=&\lim_{s\rightarrow{-n}}\frac{1}{\Gamma(s)}(I_1(s)+I^n_2(s)+I^n_3(s))\\&=&\lim_{s\rightarrow{-n}} \frac{1}{\Gamma(s)}\int_0^1 \left(\sum_{k=-r}^{n} a_{r,k}(w;{\boldsymbol{\omega}})t^k\right)\\&{}&\times t^{s-1}\,dt\\&=&\lim_{s\rightarrow{-n}}\frac{1}{\Gamma(s)}\sum_{k=-r}^n \frac{a_{r,k}(w;{\boldsymbol{\omega}})}{s+k}\\&=&(-1)^nn!a_{r,n}(w;{\boldsymbol{\omega}})\end{eqnarray*}

となります(最後でガンマ関数の留数の情報を使いました)。コレは Hurwitz ゼータの負整数点での値が Bernoulli 多項式で書けるという結果の一般化です。

あともういくつか a_{r,n} の情報をみていきましょう。母関数は (\frac{\partial}{\partial w}+1)e^{-wt}f_{\boldsymbol{\omega}}(t)=0 を満たすので、係数比較すると

\begin{eqnarray*}\displaystyle \frac{d}{dw}a_{r,n}(w;{\boldsymbol{\omega}})=-a_{r,n-1}(w;{\boldsymbol{\omega}})\end{eqnarray*}

となります。微分するとマイナスがついて位数 (って言っていいのか?) が下がる、というワケですね。

んで次は二つの母関数 e^{-wt}f_{\boldsymbol{\omega}}(t), e^{-at}f_{\boldsymbol{\alpha}}(t) を畳み込んでみましょう: 計算はめんどい (マジで畳み込むだけ) ので略しますが、

\begin{eqnarray*}\displaystyle a_{r+l,k}(w+a;({\boldsymbol{\omega}},{\boldsymbol{\alpha}}))=\sum_{N=-l}^{r+k} a_{l,N}(a;{\boldsymbol{\alpha}})a_{r,k-N}(w;{\boldsymbol{\omega}})\end{eqnarray*}

となります。

ちょっと休憩。続きはまたいつか。

Asymptotic Expansions for the multiple gamma functions of Barnes-Milnor type

っていうタイトルの論文も arXiv に投稿しました。

arxiv.org

もともと新谷が二重ガンマの漸近展開を示して、その一般化として片山、大槻の ``On The Multiple Gamma Function" で多重ガンマ関数の漸近展開が示されてたんですが、今回はそれをBM型に一般化してみました。

The q-multiple gamma functions of Barnes-Milnor type

っていうタイトルの論文を arXiv に投稿しました。

[1905.08068] The $q$-multiple gamma functions of Barnes-Milnor type


黒川-落合による BM 型ガンマ関数

\begin{eqnarray*}\displaystyle\Gamma_{r,k}(w;{\boldsymbol{\omega}})=\exp\left(\left.\frac{\partial}{\partial s}\zeta_r(s,w;{\boldsymbol{\omega}})\right|_{s=-k}\right)\end{eqnarray*}

と黒川の q-多重ガンマ関数

\begin{eqnarray*}\displaystyle\Gamma_r^q(w;{\boldsymbol{\omega}})=\frac{\Gamma_{r+1}(w;({\boldsymbol{\omega}},\tau'))\Gamma_{r+1}(w;({\boldsymbol{\omega}},-\tau'))}{\Gamma_r(w;{\boldsymbol{\omega}})}\end{eqnarray*}

の両方を含む一般化として q-BM 型多重ガンマ関数

\begin{eqnarray*}\displaystyle\Gamma_{r,k}^q(w;{\boldsymbol{\omega}})=\frac{\Gamma_{r+1,k}(w;({\boldsymbol{\omega}},\tau'))\Gamma_{r+1,k}(w;({\boldsymbol{\omega}},-\tau'))}{\Gamma_{r,k}(w;{\boldsymbol{\omega}})}\end{eqnarray*}

を導入し、それに対する倍角公式、周期変形、ラーベの公式を示したものです。ほかに、田中による積表示

\begin{eqnarray*}\displaystyle\Gamma^q_r(w;{\boldsymbol{\omega}})=\prod_{\mathbf{n}\geq\mathbf{0}}(1-q^{\mathbf{n}\cdot{\boldsymbol{\omega}}+w})^{-1}\end{eqnarray*}

q-BM型多重ガンマ関数にも一般化し、その系として上記三つの公式が容易に得られること、および渋川による消滅定理

\begin{eqnarray*}\displaystyle\zeta_r^q(-n,w;{\boldsymbol{\omega}})=0\end{eqnarray*}

も得られることを示しました。

フルヴィッツゼータ関数の関数等式について

Twitter上で NKS さん (@nkswtr) が提起した問題が解決したのでpdfにしました。

https://drive.google.com/file/d/1BWGwqgKAN64DdcuBjrFg2_fj8rVNE6Lk/view

q-ヴァンデルモンドの公式

この記事はこの曲を聴きながら読むのがオススメです:
James Brown - Turn Me Loose, I'm Dr. Feel Good

James Brown - Turn Me Loose, I'm Dr. Feel Good



最近qがアツイです。ぼくの中で。


だというのに数学界隈にはなぜか一向にqが流行りません。


というわけで今日は面白い公式を一つ。



\begin{eqnarray*}\displaystyle F(-n,b,c;1)=\frac{(c-b)_n}{(c)_n}\end{eqnarray*}


これはヴァンデルモンドの公式というやつです。まずは記号の説明。適当なパラメータ x に対して

\begin{eqnarray*}\displaystyle (x)_n=\prod_{i=0}^{n-1} (x+i)\end{eqnarray*}

とおき、この記号をポッホハマー記号と呼びます。記号をいちいち書くのが面倒くさいので、(a)_n(b)_n(a,b)_n と書くことにします。(1)_n=n! を注意。


適当なパラメータ a,b,c0<|z|<1 に対して関数

\begin{eqnarray*}\displaystyle F(a,b,c;z)=\sum_{n=0}^{\infty} \frac{(a,b)_n}{n!(c)_n}z^n\end{eqnarray*}

を(ガウスの)超幾何級数と呼びます。これは一般超幾何級数

\begin{eqnarray*}\displaystyle {}_{r+1}F_r\left(\begin{matrix}a_1,\cdots,a_{r+1}\\ b_1,\cdots,b_r\end{matrix};z\right)=\sum_{n=0}^{\infty} \frac{(a_1,\cdots,a_{r+1})_n}{n!(b_1,\cdots,b_r)_n}z^n\end{eqnarray*}

r=1 としたケースですね。


で、なんでこんな公式を扱おうと思ったかというとですね、tsujimotterさんの記事を読んだのです:
tsujimotter.hatenablog.com

この記事にあるように、証明自体は超幾何級数の変形だけで可能です。しかしぼくはq-人類、qを使わずして証明とは言えません。


というわけでヴァンデルモンドの公式のq-類似を示していこうと思います。


記号の準備。ひとまず 0<|q|<1 とします。q-ポッホハマー記号を

\begin{eqnarray*}\displaystyle (x;q)_n=\prod_{i=0}^{n-1} (1-xq^i)\end{eqnarray*}

と定めます。古典極限

\begin{eqnarray*}\displaystyle \lim_{q\rightarrow{1}}\frac{(x;q)_n}{(1-q)^n}=(x)_n\end{eqnarray*}

はかんたんですね。無限版のq-ポッホハマー記号

\begin{eqnarray*}\displaystyle(x;q)_{\infty}=\prod_{n=0}^{\infty} (1-xq^n)\end{eqnarray*}

を用いて

\begin{eqnarray*}\displaystyle (x;q)_n=\frac{(x;q)_{\infty}}{(xq^n;q)_{\infty}}\end{eqnarray*}

と書けることに注意してください。この記号を使えばq-超幾何級数

\begin{eqnarray*}\displaystyle {}_{r+1}\phi_r\left(\begin{matrix}a_1,\cdots,a_{r+1}\\ b_1,\cdots,b_r\end{matrix};q,z\right)=\sum_{n=0}^{\infty} \frac{(a_1,\cdots,a_{r+1};q)_n}{(q,b_1,\cdots,b_r;q)_n}z^n\end{eqnarray*}

というふうに定義できます。古典極限は

\begin{eqnarray*}\displaystyle\lim_{q\rightarrow{1}} {}_{r+1}\phi_r\left(\begin{matrix}q^{a_1},\cdots,q^{a_{r+1}}\\ q^{b_1},\cdots,q^{b_r}\end{matrix};q,z\right)={}_{r+1}F_r\left(\begin{matrix}a_1,\cdots,a_{r+1}\\ b_1,\cdots,b_r\end{matrix};z\right)\end{eqnarray*}

というかんじ。


よし証明だ。まずq-二項定理を示します。


実はこの定理に関しては以前の記事

o-v-e-r-h-e-a-t.hatenablog.com

でも言及したのですが、証明はしていないのでいざ。


\begin{eqnarray*}\displaystyle h(a,z)=\frac{(az;q)_{\infty}}{(z;q)_{\infty}}\end{eqnarray*}

としたとき

\begin{eqnarray*}\displaystyle h(a,qz)&=&\prod_{n=0}^{\infty} \frac{1-azq^{n+1}}{1-zq^{n+1}}\\&=&\frac{1-z}{1-az}h(a,z)\end{eqnarray*}

なので

\begin{eqnarray*}\displaystyle h(a,z)=\sum_{n=0}^{\infty} a_nz^n\end{eqnarray*}

とおくと

\begin{eqnarray*}\displaystyle(1-az)h(a,qz)=(1-z)h(a,z)\end{eqnarray*}

より両辺で係数比較して

\begin{eqnarray*}\displaystyle a_{n+1}=\frac{1-aq^n}{1-q^{n+1}}a_n\end{eqnarray*}

を得られます。そして明らかに a_0=1 なので

\begin{eqnarray*}\displaystyle a_n=\frac{(az;q)_n}{(z;q)_n}\end{eqnarray*}

となります。よって、

\begin{eqnarray*}\displaystyle h(a,z)&=&\frac{(az;q)_{\infty}}{(z;q)_{\infty}}\\&=&\sum_{n=0}^{\infty} \frac{a;q)_n}{(q;q)_n}z^n\\&=&{}_1\phi_0\left(\begin{matrix}a\\ -\end{matrix};q,z\right)\end{eqnarray*}

という等式を得ました。これがq-二項定理。もちろん古典極限をとるとニュートンの一般二項定理に帰着します。


さてお次はハイネの変換公式。これが証明のミソです。話題にするのは {}_2\phi_1 級数。ひといきに証明します:


\begin{eqnarray*}\displaystyle{}_2\phi_1\left(\begin{matrix}a,b\\ c\end{matrix};q,z\right)&=&\sum_{n=0}^{\infty}\frac{(a,b;q)_n}{(q,c;q)_n}z^n\\&=&\frac{(b;q)_{\infty}}{(c;q)_{\infty}}\sum_{n=0}^{\infty}\frac{(a;q)_n(cq^n;q)_{\infty}}{(q;q)_n(bq^n;q)_{\infty}}z^n\\&=&\frac{(b;q)_{\infty}}{(c;q)_{\infty}}\sum_{n=0}^{\infty}\frac{(a;q)_n}{(q;q)_n}z^n\sum_{m=0}^{\infty} \frac{(c/b;q)_m}{(q;q)_m}b^mq^{mn}\\&=&\frac{(b;q)_{\infty}}{(c;q)_{\infty}}\sum_{m=0}^{\infty} \frac{(c/b;q)_m}{(q;q)_m}b^m\sum_{n=0}^{\infty}\frac{(a;q)_n}{(q;q)_n}(zq^m)^n\\&=&\frac{(b;q)_{\infty}}{(c;q)_{\infty}}\sum_{m=0}^{\infty} \frac{(c/b;q)_m}{(q;q)_m}b^m\frac{(azq^m;q)_{\infty}}{(zq^m;q)_{\infty}}\\&=&\frac{(b;q)_{\infty}}{(c;q)_{\infty}}\sum_{m=0}^{\infty} \frac{(c/b;q)_m}{(q;q)_m}b^m\frac{(az;q)_{\infty}(z;q)_m}{(az;q)_m(z;q)_{\infty}}\\&=&\frac{(b,az)_{\infty}}{(c,z)_{\infty}}{}_2\phi_1\left(\begin{matrix}c/b,z\\ az\end{matrix};q,b\right).\end{eqnarray*}

やっていることを大雑把に説明すると、


1.{}_2\phi_1 の因子の一部をバラす
2.バラしたところをq-二項定理で展開する
3.整理する
4.余った部分をq-二項定理でまとめる
5.整理する


といった感じです。


q-二項定理のように「超幾何級数 = 積」という形の等式を「和公式」と呼ぶことが多いのですが、ハイネの変換公式ではまさに「超幾何級数をバラして和公式を複数回適用して組み立て直す」ということをやっています。


和公式はq-二項定理以外にもたくさんありますし、変換公式もハイネの変換公式以外にたくさんありますが、いずれも証明の根本部分は殆ど変わりません。やっていることは「級数をバラす→和公式を適用→組み直し」のプロセスです。


では本題に戻って、つぎはハイネの和公式の証明。といっても一瞬で、ハイネ変換に z=c/ab を代入すればよいのです:


\begin{eqnarray*}\displaystyle{}_2\phi_1\left(\begin{matrix}a,b\\ c\end{matrix};q,\frac{c}{ab}\right)&=&\frac{(b,c/b;q)_{\infty}}{(c,c/ab;q)_{\infty}}{}_2\phi_1\left(\begin{matrix}c/b,c/ab\\ c/b\end{matrix};q,b\right)\\&=&\frac{(b,c/b;q)_{\infty}}{(c,c/ab;q)_{\infty}}{}_1\phi_0\left(\begin{matrix}c/ab\\ -\end{matrix};q,b\right)\\&=&\frac{(b,c/b,c/a;q)_{\infty}}{(c,c/ab,b;q)_{\infty}}\\&=&\frac{(c/b,c/a;q)_{\infty}}{(c,c/ab;q)_{\infty}}\end{eqnarray*}


はいOK。これがハイネの和公式。もちろんこれも和公式の一種です。


さて目的は、q-ヴァンデルモンドの公式でしたね。証明はかんたんで、ハイネの和公式に a=q^{-n} を放り込んで終わり。

\begin{eqnarray*}\displaystyle{}_2\phi_1\left(\begin{matrix}q^{-n},b\\ c\end{matrix};q,\frac{cq^n}{b}\right)&=&\frac{(c/b,cq^n;q)_{\infty}}{(c,cq^n/b;q)_{\infty}}\\&=&\frac{(c/b,c;q)_{\infty}(c/b;q)_n}{(c,c/b;q)_{\infty}(c;q)_n}\\&=&\frac{(c/b;q)_n}{(b;q)_n}\end{eqnarray*}

という具合。bq^b に、cq^c に変えてから古典極限 \lim_{q\rightarrow{1}} をとれば簡単にもとのヴァンデルモンドの公式が得られます。




qの計算、いかがでしたでしょうか。慣れてない人にはちょっと重かったかもしれません。


でもqのお気持ちみたいなのはちょっとわかってもらえたかな、と思います。


ちなみに、最後で超幾何級数のパラメータに q^{-n} を代入しましたが、これは打ち止め (terminate, 訳語がなかったので暫定でこう呼ぶ, 決してラストオーダーではない) という操作です。(q^{-n};q)_jj>n のとき消えるので、無限和である超幾何級数を文字通り有限和にする操作というわけですね。


有限超幾何級数 (terminating hypergeometric series) はたくさんの和公式や変換公式が発見されており、それらを駆使することでアスキー=ウィルソン積分を計算したりすることもできます。


というワケでみなさんも是非qがらみの計算にトライしてみてください!







q^(-n)の代入をラストオーダーと呼ぶのもあながち間違いじゃないのかもしれない