π>3 の証明
1 年ぐらい前から作ろうと思って結局書くのがめんどくさく放置していた pdf を深夜テンションの助けを借りてようやく書き終えたので公開します。
内容は π>3 の(保型形式を使った)証明です。Fourier 展開の話とかはめんどくさかったので証明していませんが、予備知識はいらないと思います。
q-多重ガンマの話
この記事はこの曲を聴きながら読むのがオススメです:
Prince - Controversy
Prince - Controversy - 01/30/82 - Capitol Theatre (OFFICIAL)
q-多重ガンマ関数、というのがあります。ガンマ関数は皆さんご存知、階乗の一般化です。指数関数のメリン変換とかいわれるのが多いですね。
んで、多重ガンマ関数というのはガンマ関数の「多重化」というものです。いろいろ変数を増やして一般化したもので、「一重ガンマ関数」は普通のガンマ関数にあたります。
要するにq-多重ガンマというのは多重ガンマ関数のq-類似というわけですね。q-類似というのは既存の概念(関数とか)に という新しいparameterを導入して一般化することです。 の極限で元の概念になるように定めるものです。
数学(とくに解析学)に出てくるモノになんでもかんでもqをくっつけて遊ぶことを「q-解析」といいます。
数学というのは「数を学ぶ」と書きますので、当然最も基本的なモノは「数」ですね。古代からヒトは数をいじって遊んでおりました。現代でも小さい子供がお風呂に入ると「百まで数えてから出なさい」とか言われたりしますね。
そうするとお風呂に入れられた子供は「ただ一から百まで数えるのもつまらないから、q-一からq-百まで数えよう」と思うわけですね。一生懸命に「いち、いちたす、いちたすたす」という具合に数えていくわけです。
そう、自然数 のq-類似は になるのです。「なるのです」というかそう定めるのです。もちろん とも書けますね。こっちのほうがカッコええな。
では自然数が定まったところで、q-多重ガンマを作りましょう・・・と言いたいところですが、まずその前にq-解析で非常によく出てくるやつを定めます。
これはq-ポッホハマー記号とかいうやつです。 とか とかの範囲は割とどうでもいいですがまぁ気になる方は とでもしておいてください。
さてこいつには右下に の記号がついておりますね。要するにこいつはq-ポッホハマーの中でも「無限版」だということです。
無限版があるということは当然有限版もありますね。それはこんな感じです:
見れば分かるように とも書けますね。
さて「q-ポッホハマー記号」なんて名前をしてるということは当然qを付ける前の「ポッホハマー記号」もあるというわけですが、こいつは割と有名なもので、
っていうやつです。「階乗冪」とか言ったりしますね。ぼくは「shifted factorial」って言い方がカッコよくて好きです。
q-ポッホハマーを元のポッホハマーに戻すにはちょっとした補正が必要で、だいたいこんな感じです:
んでq-ポッホハマーなんか作って何をするんやという話なのですが、まず「正規積」というものを思い出してください。ぼくが何回かブログに出してたはずです。
その正規積を使って、多重ガンマ はこう書けるのです:
記号の意味は
o-v-e-r-h-e-a-t.hatenablog.com
を見てください。
さてこいつのq-類似をつくりたいのですが、非常に単純な発想でできます。右辺の積の因子をq-類似にしてやればいいだけです。
さきほど自然数のq-類似を定めましたが、より一般に複素数 に対してもこれのq-類似を として定めることができます。ロピタルの定理を使えばq→1で一致することは示せます。
というわけで、こんなものを作りましょう:
ほんとうは右辺の積の因子に がかかっていないとまずいのですが、この積は上記 と違って正規積ではないので(本当は記号が違うのですが、はてなブログでは正規積記号に対応していませんでした、申し訳ない)、その因子をつけると収束がメンドくなります。
さて、こいつで の場合を考えてみましょう。要するに「一重」のケースですね。なんとこうなります:
そらそうやな。さらに としてみましょう:
右辺は一種のテータ関数みたいなもん(ヤコビ三重積の因子と思ってもらえればわかりやすいかも)なので、テータをガンマ(の一般化)で書けたことになりますね。カッコええやろ。
もちろんq-多重ガンマには面白い成分がいっぱい詰まっておるのですが、今回はこの辺で。
近況報告
最近ブログが更新できておらず申し訳ありません。理由は
10%:やってる数学の量が多くて簡単にブログに書けるようなものではない
90%:このブログの存在を忘れていた
ことです。
最近やっている数学の話
正月の数学カフェが終わってから1ヶ月ほどは何もしておらず、それからついこないだまでの一ヶ月半(2018年2月上旬~3月下旬)は主に多重ガンマ関数に興味が湧いておりそのあたりをいろいろ調べていました。
発端は1976年の新谷卓郎先生の論文
https://projecteuclid.org/download/pdf_1/euclid.tjm/1270472992
で、「現代三角関数論」においてこの論文に載ってある等式が(結果だけ)引用されており、それに興味を持ったのでした。スターリング保型形式の積 が簡単な因子を除いて半整数ウェイトの保型形式になるというもので、この論文では二重ガンマ関数の積分表示を用いて証明していました。
この一ヶ月半ではその一般化を考えていて、$r$ 重ガンマの積分表示から $r$ 重スターリング保型形式の積の表示を出そうと奮闘していました。いい感じのpdfが書けたので近々公開しようと思います。
そしてそれから今までの2週間はちょっと趣向を変えてq-解析に手を出していました。というのも、3月の頭に神戸大学で行われた多重三角関数の研究集会に行ってきまして。(中学校の学ランで乗り込んだらずいぶんと驚かれました。)
3日間の全日程参加したのですが、そこで紹介された多重楕円ガンマ関数というものに興味がわきました。少し計算してみるとそれはどうもq-多重ガンマで書けるようで、結局のところq-多重ガンマを考えるのが良いんではないかという結論に至りました。q-二項定理の一般化とかできたらいいなーって思ってます。
音楽の話とか
12月ごろからプリンスの音楽ばかり聴いているのですが、一週間に一回ぐらいCD屋・レコード屋を巡ってアルバムをかき集めていたところ、なんと多作な彼のアルバムのうち約半分が揃ってしまいました。詳細なディスコグラフィの一覧はWikipediaに譲るとして、いまぼくが持っているアルバムは以下です:
・Prince(愛のペガサス)
・Dirty Mind
・Controversy(戦慄の貴公子)
・1999
・Purple Rain Expanded
・Around The World In A Day
・Parade
・Sign 'O' The Times
・Lovesexy
・Graffiti Bridge
・Diamonds And Pearls
・Love Symbol
・Come
・Chaos And Disorder
・Emancipation
・The Vault: Old Friends 4 Sale
・Rave Un2 The Joy Fantastic
・Art Official Age
・Plectrumelectrum
・HITnRUN Phase 1
・HITnRUN Phase 2
こうして見ると2000年代のアルバムがごっそり抜け落ちていますね。というのも、殿下は当時の通常流通ルートから外れるのにハマっていたようです。The Slaughterhouseなんかは(当時主流ではなかった)ダウンロード限定販売ですし、Planet Earth(地球の神秘)に至っては発売前にイギリスの新聞にくっつけて無料配布するというとても常人には思いつかないことをやっています。いまでは殿下が亡くなったこともあってダウンロード販売のものも徐々に物理的な販売がなされてきましたが、それでも手に入りづらいですね。
デビューから90年ごろにかけては何度か再発がなされたこともあって中古屋なんかでは比較的安く手に入ります(これは殿下に限らず、マイケル・ジャクソンのInvincibleなんかも300円ほどで売っていることがあります)が、97年のCrystal Ballなんかだと安い店でも12000円ほどします。再発が待ち遠しいです。なお99年のRave Un2~は梅田の「ディスクユニオン」で450円で手に入れました。やっす!こんな名盤がワンコインで売られていいんでしょうか。
最近お気に入りのアルバムはParadeと1999です。やはり殿下全盛期のアルバムは良いですね。Paradeに関しては本人が「Kiss以外は失敗作」と仰っていましたがとんでもない、名曲揃いです。もちろんKissがヒットしたのは事実ですが・・・(When Doves Cry(ビートに抱かれて)に続く2曲目のベースなし曲というのもあります。)
Paradeでとくに好きなのはNew PositionとGirls&Boysです。このアルバムは基本的に全曲がつながっていて、通しで聴くのが本来の聴き方なのですが、一曲一曲のインパクトが凄まじいのでどうしても単独で聴きたくなります。ただし、Girls&Boysを聞き終わってから他の曲に行くのはやはり違和感があります。そこからもともとのLife Can Be So Niceに繋ぐのがベストですね。
一方で1999はシングル・カットされたLittle Red Corvetteがあるにもかかわらず、不思議とアルバムまるごと聴くほうがしっくりきます。前半の1999からAutomaticまでの流れは一曲たりとも飛ばせません。しかし歌詞のインパクトが強いアルバムで、タイトル曲の1999なんかは「空は紫色に染まり、人々は逃げ惑う。しかしお分かりの通り、俺はちっとも気にしちゃいない」なんて。もちろん人類の終末をテーマにしたものですが、空が紫色に染まっているあたり殿下ですね。というか、こんなに楽しい曲調で終末を歌うのがもうすごいですね。5年後のSign 'O' The Timesではもうちょっとまじめにやっているのですが。
I Wanna Be Your Modular
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Nona Reeves - Sweet Survivor
NONA REEVES 『Sweet Survivor』
本記事は 日曜数学 Advent Calendar 2017 - Adventar 23日目の記事です。22日目の記事はmattyuu氏による p進距離はなぜ特別か? - mattyuuの数学ネタ集 でした。
世の中には「モジュラー形式」というものがあります。
よく知られているものだと、フェルマーの最終定理を証明する際にワイルズがこれと楕円曲線との関連を示したというところです。
これを黒川信重先生による"絶対数学"の舞台に乗せてできたものが Absolute Modular Form、「絶対保型形式」です。定義は少々面倒なので、今日はすこし具体例を眺めてみましょう。
1900年ごろ、バーンズはガンマ関数の多重化というアイデアを考えつきました―――これこそが黒川先生らの考える多重三角関数論の源流です。
これはレルヒの公式の一般化によって定義されるものであり、通常のガンマ関数と同じように無限積で書き下すことができます。
ここで \begin{eqnarray}\displaystyle\zeta_r(s,w,\omega)=\sum_{{\bf n}\geq{\bf 0}}^{} ({\bf n}\cdot\omega+w)^{-s},\end{eqnarray}
は によってきまる の 次多項式で、 というのは に対して かつ であることをいいます。
はボールド体ではない(TeXで打てなかった)ですが、複素数 個の組 だと理解してください。
です。
さてこれらを比較してみると、まず が気になりますね。 はもともと を一般化したものですから、 を一般化して が出てきたのだと推測できます。
o-v-e-r-h-e-a-t.hatenablog.com
で紹介したレルヒの公式からすると、 でなくてはならないはずです。そして、この値はまた
でもありました。複素数 個の組 は「周期」と呼ばれ、多重ガンマ関数 の補助的な変数になっています(メインの変数はもちろん )。つまり、一般化を逆にたどると であるということですね。
ここまでくると、 をどう定義すればいいかはもう見当がつきます。もちろん
\begin{eqnarray}\displaystyle\rho_r(\omega):=\prod_{{\bf 0}\neq{\bf n}\geq{\bf 0}}^{} {\bf n}\cdot\omega\end{eqnarray}
ということですね。ところでこれは正規積なので、書き直してみると
\begin{eqnarray}\displaystyle\zeta_r^{\star} (s,\omega)=\sum_{{\bf 0}\neq{\bf n}\geq{\bf 0}}^{} ({\bf n}\cdot\omega)^{-s}\end{eqnarray}
として
\begin{eqnarray}\displaystyle\rho_r(\omega):=\exp\left(\left.\frac{\partial}{\partial s}\zeta_r^{\star} (s,\omega)\right|_{s=0}\right)\end{eqnarray}
とも書けますね。ということで、こいつが今回扱う「絶対保型形式の一例」です。本記事の目標は における特殊な例、 を明示的に求めることとしましょう。
それを示すためにはたくさんの道具が必要なのですが、そのうちの一つをここで定義します:
\begin{eqnarray}\displaystyle\zeta_4^M(s):=\sum_{m\geq{1},n\geq{0}}^{} (m+ni)^{-s}\end{eqnarray}
これは私が導入した関数で、私が勝手に4次元モノイドゼータと呼んでいるものです。詳細については2018/1/7に数学カフェで行われる講演の資料(終了後公開予定)を参照してください。
[補題1(ポアソン和公式)]
\begin{eqnarray}\displaystyle\sum_{n\in\mathbb{Z}}^{} f(n)=\sum_{m\in\mathbb{Z}}^{} \widehat{f}(m)\end{eqnarray}
[証明]
に対してのフーリエ変換の定義
\begin{eqnarray}\displaystyle\widehat{f}(y):=\int_{-\infty}^{\infty} f(x)e^{-2\pi ixy} dx\end{eqnarray}
を思い出しておきます。
としたとき、 は明らかに周期 なのでフーリエ展開
をもつ、というのがわかります。
\begin{eqnarray}a_n&=&\int_0^1 h(x)e^{-2\pi inx}dx\\&=&\sum_{m\in{\mathbb{Z}}}^{} \int_0^1 f(x+m)e^{-2\pi inx}dx\end{eqnarray}
ですが、 で変数変換すると積分範囲は から となり、 より
\begin{eqnarray}a_n&=&\sum_{m\in\mathbb{Z}}\int_m^{m+1} f(y)e^{-2\pi in(y-m)}dy\\&=&\int_{-\infty}^{\infty} f(y)e^{-2\pi iny}dy\\&=&\widehat{f}(n).\end{eqnarray}
ゆえに
\begin{eqnarray}h(x)&=&\sum_{n\in\mathbb{Z}}^{} f(x+n)\\&=&\sum_{n\in\mathbb{Z}}^{} \widehat{f}(n)e^{2\pi inx}.\end{eqnarray}
となります。両辺で とすると目的の公式を得られます。[証明終]
[補題2(リプシッツ和公式)]
\begin{eqnarray}\displaystyle\sum_{m\in\mathbb{Z}}(m+z)^{-s}=\frac{(-2\pi i)^s}{\Gamma(s)}\sum_{m=1}^{\infty} m^{s-1}e^{2\pi imz}\end{eqnarray}
[証明] ※日本語で証明している本・文献が見つからなかったのでクノップとロビンスの論文"Easy proofs of Riemann's functional equation for and of Lipschitz summation"のTheorem 1の証明を参考にしています。
として、ポアソン和公式を適用します:
\begin{eqnarray}\displaystyle\sum_{m=1}^{\infty} m^{s-1}e^{2\pi imz}&=&\sum_{n\in\mathbb{Z}}^{} f(n)\\&=&\sum_{m\in\mathbb{Z}}^{} \widehat{f}(-m)\\&=&\sum_{m\in\mathbb{Z}}^{} \int_{0}^{\infty} x^{s-1}e^{2\pi ixz}e^{2\pi imx}dx\\&=&\sum_{m\in\mathbb{Z}}^{} \int_{0}^{\infty} x^{s-1}e^{-(-2\pi i(m+z))x}dx\\&=&\sum_{m\in\mathbb{Z}}^{} (-2\pi i(m+z))^{-s}\Gamma(s)\end{eqnarray}
となって、両辺を整理すると証明できます。[証明終]
さてこれを使うことで、 の解析接続(のような何か)を行うことが可能です。自然対数の偏角を にとるものとして、
\begin{eqnarray}\displaystyle\zeta_4^M(s)&=&\frac{(1+e^{-\frac{i\pi s}{2}}+e^{-i\pi s}+e^{\frac{i\pi s}{2}})}{(1+e^{-\frac{i\pi s}{2}}+e^{-i\pi s}+e^{\frac{i\pi s}{2}})}\zeta_4^M(s)\\&=&\frac{1+i^{-s}+(-1)^{-s}+(-i)^{-s}}{(1+e^{-\frac{i\pi s}{2}}+e^{-i\pi s}+e^{\frac{i\pi s}{2}})}\zeta_4^M(s)\\&=&\frac{1}{(1+e^{-\frac{i\pi s}{2}}+e^{-i\pi s}+e^{\frac{i\pi s}{2}})}\sum_{m,n\in\mathbb{Z}\atop{(m,n)\neq{(0,0)}}}^{} (m+ni)^{-s}\\&=&\frac{1}{(1+e^{-\frac{i\pi s}{2}}+e^{-i\pi s}+e^{\frac{i\pi s}{2}})}\sum_{m,n\in\mathbb{Z}\atop{(m,n)\neq{(0,0)}}}^{} (m+ni)^{-s}\\&=&\frac{1}{(1+e^{-\frac{i\pi s}{2}}+e^{-i\pi s}+e^{\frac{i\pi s}{2}})}\left(\sum_{m,n\in\mathbb{Z}\atop{n\neq{0}}}^{} (m+ni)^{-s}+\sum_{0\neq\in\mathbb{Z}}^{} m^{-s}\right)\\&=&\frac{1}{(1+e^{-\frac{i\pi}{2}}+e^{-i\pi s}+e^{\frac{i\pi}{2}})}\left( (1+(-1)^{-s})\sum_{m\in\mathbb{Z},n\geq{1}}^{} (m+ni)^{-s}+(1+(-1)^{-s})\zeta(s)\right)\\&=&\frac{1+e^{-i\pi s}}{(1+e^{-\frac{i\pi s}{2}}+e^{-i\pi s}+e^{\frac{i\pi s}{2}})}\left(\zeta(s)+\sum_{m\in\mathbb{Z}}^{} \sum_{n=1}^{\infty} (m+ni)^{-s}\right)\\&=&\frac{1+e^{-i\pi s}}{(1+e^{-\frac{i\pi s}{2}}+e^{-i\pi s}+e^{\frac{i\pi s}{2}})}\left(\zeta(s)+\sum_{n=1}^{\infty} \frac{(-2\pi i)^s}{\Gamma(s)}\sum_{m=1}^{\infty} m^{s-1}e^{-2\pi mn}\right)\end{eqnarray}
となるので、和の変数を から におきかえて整理すると
を得ます。これは通常発散するはずの値も求めることができて、今回使うのは の場合です(一般の負の整数に対しても明示的に求めることが可能です。1/7数学カフェで詳細をお話します)。簡単に計算できて
\begin{eqnarray}\displaystyle\zeta_4^M(0)=-\frac{1}{4}\end{eqnarray}
となります。この値を後で使います(っていうかこの記事で を導入したのはこれを使うためだけです)。
これはまだ準備段階の更に最初の方で、ここから延々と計算のキツイ補題が続いていくのですが、一つの記事に収めるのは到底不可能なのでここではいくつかをFactとして認めることにします(あまりにも記述量が膨大になってしまうことに投稿一日前に気づきました。ごめんなさい。今度書きます)。
とりあえず、明解にするために一番大きな定理をここで出してしまいます:
[主定理(新谷、1980)]
ここで
まずこれを使って目標である を先に求めてしまいます(膨大な記述、というのはこの定理の証明のことです): として、
となり、それなりに簡単に書けました。
次に、また記号を改めた関数を導入します:
これを使うと、今問題にしている が次のように書けます:
そして、
となることより、
というのが導かれます。また、
なのでもちろん です。ここから
がわかって、さっき導いた の式と合わせて
が出ます。 を中心に整理すると
となりますね。まだ残っている が気になりますが、これは
o-v-e-r-h-e-a-t.hatenablog.com
の定理1と保型形式間に成り立つ関係式
からすぐに値を求めることができます(この関係式については
も参照)。実際には なので、結局
となります。
さて、一番面倒な主定理の証明ですが、長すぎるのでかなり天下り的になってしまいました。ご了承ください(後ろから読んでいくのを推奨します)。先に記号をいくつか定義します:
として定義されます。イメージとしては無限の長さを持つ丸底フラスコを右に倒した感じです。
はベルヌーイ多項式です。定義は になるほう。
以下の補題3,4,5,6をひとまず認めることにします:
補題6はスターリングの公式なので簡単に証明できるはずですが、補題3,4,5はどれも面倒です(3は比較的簡単。
補題7以降は証明を与えます。
[証明]
(1)
あとはレルヒの公式でおわり。
(2)
o-v-e-r-h-e-a-t.hatenablog.com
より
がいえるので
より、上の式で として となります。
[証明終]
[証明]
補題7より
これを繰り返し使って
となって、
[証明終]
[証明]
[証明終]
[証明]
補題9で とすると
より
補題7(2)より なので の定義より となる、よって となって
[証明終]
12/24の記事は盛田みずすまし氏の記事です、お楽しみに。
三角関数について(その1)
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NONA REEVES - メモリーズ ~ひと夏の記憶~
メモリーズ ~ひと夏の記憶~ [LIVE]/NONA REEVES
2017年5月13日に大阪で行われた第6回ロマンティック数学ナイトにおいて私はショートプレゼンを行い、その中で主定理として以下を示しました:
[定理1(レルヒ/1897)]
プレゼン内でこういうことを話しました。
「バーゼル問題とこれって似てない?」
実際似てるんです。バーゼル問題は「自然数の乗逆数和」で、この問題(レルヒの定理と呼びましょう)は「ガウス整数の乗逆数和」ですからね。
さて、ここでリーマンがかの有名なゼータ関数を作り出したきっかけを思い出してみましょう。
それは紛れもなくバーゼル問題です。すなわち、リーマンはバーゼル問題の中にあった「自然数乗の逆数和」を一般化して「自然数の乗の逆数和」とし、それをゼータ関数としたのです:
このとき、私がレルヒだったらこう考えていたでしょう。
「リーマンのやつ、バーゼル問題を一般化してゼータを作ったな。じゃあ、オレだって同じことしてやろうじゃないか」
ということで、以下の関数を定義します:
[定義2]
見るからに面白そうなヤツを作り出してしまいました。しかし、数学者たるものこんなもんでは満足しないのです。アイゼンシュタインはこれをさらに拡張した関数を定めます。
[定義3]
これを「アイゼンシュタイン級数」といいます。こいつは非常に奇妙な関数で、何と言っても特徴的なのは「表も裏もゼータである」という点でしょう。
表も裏もゼータ、といってもなんのことかわからないかと思います。そりゃもちろん、私が勝手に考えた言葉ですから。
解析的整数論では割りと有名な事実として、こういうものがあります:
これが言っているのは、要するに「数列の母関数をメリン変換したらゼータになるよ」ということです。
命題4ではゼータをだいぶ限定的な書き方(分母がになっている)をしているのですが、実際のところ一般のゼータはこんなに堅苦しい定義ではありません。
分母が自然数の乗ではなく、整係数二次形式の乗のような形になっている超フリーダムな格好をしたゼータもあります。ここでは詳しく述べませんが、エプシュタインのゼータ関数やヘッケのL関数などがそれですね(実は前記事で述べたRAESはそれの特殊な場合だったり)。
私は普段よく、関数の表や裏といった言い方をします。これはどういうことかというと、母関数を「表側」ゼータを「裏側」という風に呼んでいるのです。
つまり、一般の冪級数はを代入してメリン変換することで「裏返って」、たちまちゼータになってしまうわけですね。メリン変換には「逆メリン変換」というのもあるので、ゼータを再び裏返して表向きにすることももちろん可能です。
ここまで言うと、私が先程述べた「表も裏もゼータ」という言葉がはっきりとした輪郭を持ってくるかもしれません。
すなわち、アイゼンシュタイン級数は「母関数」でもあって「ゼータ」でもあるのです。その姿を見てみましょう:
[の表側]
[の裏側]
裏側は先程見た定義のとおりですね。集合の元の乗逆数和を渡る和という点がゼータっぽい要素です。
不思議なのは表側の方です。なんと、約数関数とベルヌーイ数を係数にもつ冪級数として書けてしまいました(この事の証明はまた今度の記事でやります)。
これが、「両面ゼータ」ことアイゼンシュタイン級数の美しい姿です。
グレブナー基底大好きbotさん作「最近、妹がグレブナー基底に興味を持ち始めたのだが。」の二話にこんな言葉があります。
「実数は、まだ人類には早すぎる。」
そうなんです。実数なんてもんはめちゃくちゃでかいんです。
だとしたら、実数をさらに押し広げてしまった複素数なんてものはもっともっとでかくて、人類どころか宇宙人にも扱いづらい対象なのではないでしょうか。
しかし、アイゼンシュタイン級数はと言うかたちをしています。カッコの中にいる変数は、即ち複素数です。
こんなものは人類には扱えるはずがありません。ということで、名残惜しいですが限定してしまいましょう。
[定義5]
ここで、
は所謂「1の乗根」と呼ばれるやつです。
私たちにとって大きすぎた複素数も、ここまで制限してやるとある程度は扱えるようになります。
さて、ここで少しだけ話題転換。リーマンゼータの特殊値公式を見ていただきたいのです。
[定理6]
[定理6証明]
まず三角関数の無限積展開
において、を代入します:
ここで、オイラーの公式よりなので、
の対数微分は
の対数微分もとって、
はもちろん等しいので、以下等式を得ます:
ここで、ベルヌーイ数の定義を思い出しましょう。こうでしたね:
最初のほうの値を用いてちょっと変形して、
をの左辺に代入すると、
最後の変形では両辺にをかけていることに注意してください。
そしてこの式を、等比級数の和公式などによって変形していきます。今までも割りと計算が大変でしたが、このパートはさらにめんどくさいので手元に紙とペンがあれば計算を追っていくのをオススメします:
両辺の係数を比較すると、
以上にて結論を得ます。
この定理はを有理数列とで表現できる、というものです。
さて、ベルヌーイ数は母関数としての定義以外に次のような漸化式を満たすものとしても定められます:
[定義7]
そして、唐突ではありますが、次のような数列を導入します:
定義8は、定義7とどことなく似ている気がしませんか?漸化式で定義されているところや、特定の倍数(定義7では2の倍数、定義8では4の倍数)の項以外が存在しないところや、漸化式の和に二項係数が出てきているところなどです。
ここでフルヴィッツ数を導入したのは、「ベルヌーイ数と似ているもの」を作るためです。
定理6で述べられている通り、はベルヌーイ数と円周率で作り上げられています。
なので、と似たものを作り上げようと思えば、ベルヌーイ数や円周率に似たものを導入する必要があるわけですね。
ベルヌーイ数と似たものを導入すれば、必然的に円周率と似たものも作る必要があります。そのために円周率の定義を見直しましょう。
[定義9]
定数は以下のように定義され、円周率と呼ばれる:
円周率を、積分を使って定義しています。図形的な視点からも、この定義が一番自然ですね。
そして、円周率と似た定数をまた積分で定義します。
レムニスケート周率という名前は、文字通り「レムニスケート」という図形の周長の半分であることからきています。
円周率が円の周長の半分であることからもわかりますね。
さて、こうして私たちはベルヌーイ数と円周率にそれぞれ似ているものを作り出しました。これらを用いて、ようやく次の定理を述べることが出来ます。
[定理11]
定理6とやはり似ていますね。違う点は以下の通り:
(1)定理6の分母にはがあったのに、定理11の分母は階乗だけになっている
(2)定理6の分子には符号の補正があったのに、定理11にはない
相違点(1)の原因は、リーマンゼータ関数が「整数」ではなく「自然数」を渡っている点にあります。
もしリーマンが、
と定義していれば、定理6の右辺の分母にが現れることはなくなって定理11と揃ってくれます。
相違点(2)については、かなり複雑な要因が絡み合った結果生まれた相違点なので今後の記事に回すことにします。ごめんなさい。
では、定理11の証明をしていきましょう...といいたいところですが、そのためにはまだ一人足りないメンバーがいます。というわけで呼びました。
は一般的に「格子」なんて言われる集合ですが、私はこの名称が(なんかダサいから)嫌いなので英名のlatticeと呼ぶことにします。
そして、関数はいわゆるワイエルシュトラスの楕円関数ですね。この記事タイトルが「三角関数について」である理由は、この楕円関数と三角関数の著しい類似を示すことが主目的だからです(といっても、この記事でその類似が明らかになるのは定理11だけですが...)。
を扱いやすいように変形するためには、まず等比級数の公式をつかいます。
ですね。次に、この両辺を微分します。
を代入すると、
となるので、両辺からを引いてを掛けると
となります。これを定義12にある式に代入すると、以下を得ます:
式でうまく収束するように小さくをとったとき、式の二重級数はともに絶対一様収束するので和を交換でき、
とできます。ここで、
と置いています。関数はによって決まっていることに注意して下さい。
とおくと、
奇数に対し、
ゆえにとなるため、の展開は偶数項だけを渡る和となります:
これである程度は扱いやすい形になったのではないでしょうか。
とりあえず、長くなるので今回の記事はここまでとしておきます。次回では、導いたの展開と微分方程式を利用して定理11を示す予定です。
クロネッカーの極限公式
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NONA REEVES - 地球儀と野鼠
前回の記事
o-v-e-r-h-e-a-t.hatenablog.com
で解説した定理2、RAES(実解析的アイゼンシュタイン級数)のフーリエ展開を使うときが再びやってまいりました。
続きものなので、前回の記事を読んでいない方は先に読むことをおすすめします。
はラマヌジャンが発見した関数の一種で、いわゆる保型形式というやつです(その中でも正則な部類に入る)。
これは今まで学んだ数学の中で僕が一番好きな関数なので、今後幾つか関連記事を書こうと思います。
[証明]
予告した通りRAESの展開を使うのですが、すこし変形しておきます。
まず第二項の分子にあるを関数等式によってこう変形します:
分母にあるは定義どおりにそのまま展開すると、以下のようになりました:
これにちょっと細工をしてやることでを求めていくのですが、その前にちょっとだけ準備をしましょう。
まず、ガンマ関数のローラン展開について考えます。この関数はに位の極を持つ以外に極はないので、ローラン展開の負部分はの項で打ち止めですね。
つまり、こう書けるわけです:
ここでは「以上の項」のような意味です。
さて、これを用いることでいい感じの関数に対して以下のようなことができます:
これを、とに対して適用すると
より、が従います。また、
もすぐにわかりますね。はわざわざ添え字を書くのもアホらしいのでとしておきましょう。
そして、式中にはなんてのが出てきていますが、前回の記事・定理3で
を示しているので、一般に
の計算方法がわかればこれも計算できます。では調べてみましょう。
において、というふうに変数を変換します。すると、
なので、
ということに注目すると
ここで、再び変数変換を行います。今度は、
なので、
より(この変数変換で一度積分範囲が上下逆に入れ替わってることに注意してください)、
となって、関数は簡単な微分方程式
を満たすことがわかりました。これの解は、を定数として
とされます。とすることで、
より、
が得られました。
これを先程導いたの表示式に代入すると
これで定理左辺の計算は終わったので、右辺の計算に移行しましょう:
実部の計算は面倒なのでそこだけ抜き出して行うと、
となるので、
がわかります。最後の変形では、シグマの変数を新しい変数に改めています。
これを倍してシグマの変数をからに差し替えることで、
となって、定理左辺と一致しました。これにてクロネッカーの極限公式、証明終了です。
しかし、どこか物足りない感じがしますね。
定理左辺の、これはRAESをで微分してを代入することを表しています。
しかもRAESの定義において、変数はシグマ内部をまるごと乗するというところに現れています。
となると、正規積に関連付けたくなりますね。実際、そういった言い換えが存在します:
[クロネッカーの極限公式・正規積バージョン]
[証明]
正規積の定義(以下記事参照)より、
o-v-e-r-h-e-a-t.hatenablog.com
としておきます。数列のゼータは「もとの数列を乗してシグマに入れる」が定義でしたから、こうなります:
ここのゼータの右下にくっついてるはクロネッカー(Kronecker)のです。デデキントゼータじゃないので代数体とかのとかではありません(岩波書店の数論2という本ではこのゼータはではなくとして表記されていますがなんかダサいのでやめました)。
ではコイツの計算をしていきましょう:
なので、微分してを代入することで
です。ただし、とを使っています。
前者は記事「等差数列の無限積」で示した定理でとした結果の対数を取ってマイナスを付けることで得られ、後者は記事「実解析的アイゼンシュタイン級数」で記載しました。
すると残った計算はだけになりますが、これはそのままクロネッカーの極限公式を使えば良いですね。
したがって、
です。これにマイナスを付けて指数関数に入れれば、
となって定理が示されました。
クロネッカーの極限公式、以上で終了です。
次回記事では、これを利用していくつかの無限積の特殊値などを求めていこうと予定しています。お楽しみに。
実解析的アイゼンシュタイン級数
この記事はこの曲を聴きながら読むのがオススメです:
Michael Jackson - They Don't Care About Us
Michael Jackson - They Don't Care About Us - Live Munich 1997- Widescreen HD
「実解析的アイゼンシュタイン級数」
このおなまえを聞いて、ピンとくる人はどれくらいいるでしょうか。
Wikipediaには記事がありますが、特殊関数の中で有名な方ではありません。
しかしコイツは、自身が持つ強烈なフーリエ展開を背景とした素数定理の別証明を与えられるほど強い性質を持っています。
今回はその性質の一部を紹介したいと思います(今後この長ったらしい名前を呼ぶのはかったるいのでReal Analytic Eisenstein Seriesの頭文字からRAESと呼びます)。
<定義>
に対して
とする。ただし、である。
まぁ定義だけ見せられてもなんのこっちゃかわからないと思うので、基本的性質を示していきましょう。
[定理1]
に対して、
これを示すには、を示せば十分です。
なぜなら、とはの生成元だからです。前者は
とすぐに確かめられますね。
が互いに素ならばも互いに素ということは既知とします。後者のほうは、
ですが、
を用いると
となります。これで第二変数のの元に対する不変性(これを保型形式の保型性と言ったりします)が示されました。
[定理2]
ただし、
いやぁ、強烈ですね。
これが最初に述べたRAESのフーリエ展開です。定理1で周期をもつことを示しているから可能ということですね。
「フーリエ展開はの形をしてるのが普通だろ!いい加減にしろ!」なんてお思いの方もいらっしゃるかもしれませんが、この場合は初めの二項が今言った式での、つまり「定数項」にあたります。そして、第三項の級数の部分がの部分です。
[証明]
変数が周期を持つのでフーリエ展開できる、ということでしたが、周期はなので実質が周期を持つことになります。
よってこう書くことができます:
このフーリエ係数は、展開の定義より
と書けます。
これを計算するわけですが、めんどくさいのでちょっと楽な方法を使いましょう。
まず、完備RAESを定義します。
完備リーマンゼータの定義はさきほど述べましたね。これを次のように分割してしまいます:
ただし、下から二行目のシグマの下についているダッシュ記号は「がともにであることはない」という意味です。
ここで、
となります。
まぁこれを仮に等式Aとでもしておきましょう。
に注意すると、
がわかります。
ここで、にたいして
が成立すること(証明は略、のような変数変換をすることで簡単に示せます)を用いると、
となります。
さらに、ポアソン和公式から導かれる定理
を使って(証明はまた今度、ポアソン和公式の紹介も兼ねて新しい記事を書きます)、
がわかりますね。
このうちの前の項は、
となり、後ろの項は積分の変数をとすることで
であることから
を導けます。
こうして得た前の項、後ろの項を足すと、
となります。
ただし、最後の変形ではをあらたにという変数に置き換えることでシグマを一つ減らす手法を取っています。これと等式Aをまとめると、
なので、両辺をで割ってシグマの変数をからに差し替えることで
が得られます。これで定理2の証明が終了です。
でもこの記事はこれだけでは終わりません。
たしかに定理としてのインパクトはこのフーリエ展開が一番ですが、この結果を使った非常に美しい等式があります。そちらがメインです:
[定理3]
<証明>
より
となります。
そこで、有名な関数等式を使えば
となって、との第一項と第二項が等しいことがわかります。第三項が等しいことを示すには、
(1)
(2)
をいえばよいですね。
ここは思い切って一般化してしまって、
(1)'
(2)'
を示すことにしましょう。
[(1)'証明]
[(2)'証明]
定義より
ですが、ここで変数変換を施します。すると、
となり、証明されます。
以上より、定理3の証明も終了です。
本記事では記載しませんでしたが、RAESにはもう一つ重要な性質として「ラプラシアンに対する固有関数である」というものがあります。
この性質と、定理1をあわせた性質を持つ関数として、「マースの波動形式」というものが定義されます(厳密にはフーリエ係数の評価も要求される)。
これはうまい具合にRAESの一般化となっていて、実は「ラプラシアンに対する固有関数である」ということから定理2のフーリエ展開が波動形式においても導けることがわかります。
一般の波動形式に対するリーマン予想とも呼べるような未解決問題「セルバーグの予想」というものがあるのですが、これについても今後記事を書く予定です。